2020 Fiscal Year Research-status Report
世界遺産バンチェン遺跡の遺物の古美術品化とその価値づけをめぐる文化人類学的研究
Project/Area Number |
19K01239
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
中村 真里絵 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 外来研究員 (20647424)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 土器 / 古美術品化 / 真正性 / バンチェン遺跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、コロナ禍により予定していた海外調査および国内調査が実施できなかったため、前年度までの調査で得たデータをまとめ、研究発表をおこなった。 まず1970年代に日本に流出し、これまでタイのバンチェン遺跡の遺物だとされていた二つの土器がどのようなプロセスを経て、ホンモノの遺物となるのかを考察した。これらの土器は日本人所有者が長年所有してきたものであるが、高齢化などを理由に寄贈先を探していたという事情があった。放射性炭素年代測定を実施した結果の測定値を、かつてのバンチェンの年代観に照らし合わせると想定より若干新しい年代の土器であることがわかった。しかし、近年バンチェン土器の年代観が広がってきたこと、考古学者の経験といったものを含めた総合的見地から、最終的にその土器はバンチェン遺跡のホンモノの遺物であると結論づけられた。それにともない、現在の文化財をめぐる潮流、所有者の希望などを考慮し、タイ本国へ寄贈することになった。このような経緯から、様々なアクターの下、理化学年代測定や年代観、研究者の見解という、客観性と曖昧性のはざまで、考古遺物というモノの価値が定まっていくことを明らかにした。今回の事例は、1970年代に日本に流出したバンチェンの遺物が大量であったことを考慮すると、そのすべてにこのような手続きを取ることは不可能であると考えるが、現在、社会問題となっている流出文化財の真正性やその帰属について考察する上で一つのモデルとなると考える。 また、バンチェン遺跡に住む村人たちが、いかにバンチェンの遺物ブームを受け止めてきたのか、現在、世界遺産に住む住人としてどのような意識を持ちながら生活しているのか、これまでの聞き取り調査で得たデータをまとめて雑誌に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度はコロナ禍の拡大のために、予定していた国外調査が実施できなかった。また、国内調査も高齢者をインフォーマントとしていたため、感染のリスクを考え、実施することができなかった。そのため、データの収集に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の収束がみえない現時点では海外調査の計画を立てることは難しいため、国内調査を中心に研究計画を立て直す。2020年度実施できなかった、国内コレクターへの聞き取り調査、古美術商への聞き取り調査、国内博物館での資料熟覧調査、国立国会図書館での古雑誌の調査を実施する。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナ感染症の世界的流行により、予定していた国外調査、国内調査が実施できなかったため、次年度使用額が生じた。今年度も先行きは不透明であるため、安全性を確保しながら国内調査を中心にすすめる他、タイでの文献収集を研究補助者に依頼するなど適宜工夫しながら研究を遂行する予定である。
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Research Products
(2 results)