2021 Fiscal Year Research-status Report
「仲裁の消費者化」の法理・実態・展開過程:現代アメリカ「ビジネス保守」の法文化
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19K01242
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
会澤 恒 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (70322782)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 私人による法実現 / 仲裁の消費者化 / 民事司法の縮小 / クラスアクションの放棄 / 制定法上の訴権 / 事件性の要請と事実上の損害 / 現代アメリカのビジネス保守 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、米国において、消費者契約や個別的雇用契約等においても仲裁条項が普及していること(「仲裁の消費者化」)をめぐる実定法規範の構造と背景にある法文化・政治過程の検討を通じて、「私人による法実現」のあり方について再検討を加えるものである。 本年度に行った作業として、仲裁のパフォーマンスの実際について、経験的手法を執る先行研究を元に整理した。「消費者化された仲裁」においては仲裁合意の対等性が崩れており、また消費者等にとっては1回限りの紛争でも、企業等はリピートプレイヤーとして振る舞うことから、後者に有利な仲裁人・仲裁機関を選択することが可能である。仲裁人・仲裁機関も企業側に有利に取り扱うインセンティブを有する。仲裁のパフォーマンスについては次の点を指摘できる。労働者と企業との紛争につき、第一に、同種の紛争を取り扱う訴訟手続と比較して、仲裁手続では労働者側の勝訴率は有意に低い。第二に、労働者側の主張が認められた場合でも、獲得される損害賠償額はやはり有意に低い。第三に、労働者・企業間の仲裁でも、給与水準の低い労働者の関わるもののほうがより勝訴率が低い。第四に、雇用主がリピートプレイヤーとして仲裁手続に登場する際には、労働者側の勝訴率は有意に低い。データセットの限定性から一般化には慎重であるべきだが、一定程度、「消費者化された仲裁」が企業側に有利に機能していると言える。 また、「私人による法実現」という視角から興味深い法現象として、近時、一部の保守的な州が人工妊娠中絶に対する規制を強化するに当たって、州当局の規制ではなく、私人による民事訴権を付与するという手法を採用していることを指摘できる。従来、「私人による法実現」というコンセプトはリベラル陣営が好み、政治的保守の立場はこれに批判的であったが、後者によるこのコンセプトの活用についてはさらに深掘りする意義があるように思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い2020年度に実施することができなかったアメリカ合衆国へ渡航して仲裁(特に消費者仲裁)のあり方に関する現地での実態調査を行うことを中心的作業として予定していた。しかし、引き続き、所属機関の行動指針により海外渡航が認められず、また渡航予定先においても入国制限措置および入国後の行動制限を行っていたことから、現地調査を行うことを断念した。オンラインでの調査の可能性を探ったが、十分な成果を得られなかった。文献調査により可能な作業を進めたが、当初計画通りの成果に達しなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
現地調査の障害となっている新型コロナウイルス感染症に伴う内外の社会情勢については予断を許さないものの、渡航予定先であるアメリカ合衆国においては平常への回帰が進みつつある。我が国においても規制緩和が進みつつあり、所属機関の行動指針の緩和も見込まれる。また、オンライン会議が普及したことから、海外の研究者・実務家との連絡・交流のハードルが下がったこともあり、まずはこの回路を通じて情報収集を試みた上で、年度中盤~後半に機を見て現地調査を実施することを検討している。
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Causes of Carryover |
2021年度は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い2020年度に実施することができなかったアメリカ合衆国へ渡航しての現地調査を中心的作業して計画し、そのための海外渡航費が予算の主要部分を占めていた。しかし、しかし、新型コロナウイルス感染症の流行が継続し、所属機関の行動指針により海外渡航が認められず、また渡航予定先においても入国制限措置および入国後の行動制限を行っていたことから、現地調査を行うことを断念せざるを得ず、そのための予算執行ができなかった。同様に、所属機関の行動指針により国内出張についても差し控えることが求められたため、国内出張旅費についても執行ができなかった。 出張を伴うヒアリング・研究会出席・打ち合わせについては、一部をオンライン会議で代替することで経費が節減された。今後も同様の機会は多くなると考えられることから、そのためのIT環境の整備・拡充のための設備・備品を調達する予定である。 他方で、オンライン会議では十分に意見交換を尽くせない面も残る。内外ともに行動制限が緩和されつつあり、2022年度には状況の改善が期待されることから、機を見て現地調査を実施することを検討している。
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