2019 Fiscal Year Research-status Report
Political manipulation of legal science in GDR
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19K01245
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西川 洋一 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (00114596)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 東ドイツ / 法学史 / 非ナチ化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、まず準備的作業として、法学との間に密接な相互関係を有する初期DDR司法のあり方、特にSEDによる「司法の民主化」政策の展開とその歴史的意味について検討した。法政策の核心的な部分である司法政策の特徴を明らかにすることは、SED/国家官僚制の法学に対する政策の歴史的評価を深めるために不可欠だからである。その結果「司法の民主化」は、 (1)人民代表機関による司法のコントロール、(2)司法の「非ナチ化」、(3)「人民に近い司法」の構築、の3つの領域から成ること、(1)については、特に裁判官選挙制の実態(人民の意思の反映ではなく選挙運動を媒介とする人民及び司法部への政治的意思の伝達)、(2)については「非ナチ化」を道具としてのSED支配の強化、(3)については、人民の司法参加がSEDの法政策の社会への伝達を主目的としていたこと、法・法用語の簡便化、手続きの簡素化は裁判所のイニシアティブの強化をもたらしたこと、を明らかにした。この司法の民主化政策については、論文を連載中である。 この準備作業と並行して、一般にDDR法学に対する政治的コントロール強化のきっかけとなったとされる1958年4月のバーベルスベルク会議とその前後において法学に対しSED/国家官僚制がどのような観点から介入を行なったかを検討した。1950年代はじめに大学と法学部の改革が進められたが、SEDはその進展に不満を持ち、1955年頃から大学の法学教育に対する直接的攻撃を始めていた。これを承けて開催された1956年のバーベルスベルク会議も、DDRに則した社会主義法形成への途が明らかにされていないとの批判を受けた。法学に対するこのようなSED指導部の不満が、1958年の会議の底流にあることが明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
すでに基本的な研究文献の多くは入手しているため、ドイツで原史料を調査することに努めた。比較的長期の滞在を予定してベルリンでは多くの史資料を調査することができたが、出張中に体調不良を生じたため、予定していたライプツィヒでの調査は諦めて出張期間を短縮せざるを得なかった。しかしベルリンで調査した資料によって19年度の研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「司法の民主化」に関する論文を完成させるとともに、まず、1955年、58年の両バーベルスベルク会議と、(ドイツでも全く知られていない)58年会議をフォローするいくつかの集会についての検討を進めることで、ドイツでも見解が鋭く対立している58年会議の意味についての見通しを持つことに努める。その後は、「司法の民主化」論文でも簡単に触れた法学教育改革のプロセスを精査する。
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Causes of Carryover |
ドイツの図書館で予想以上に多くの書物をコピー、スキャンすることができ、その費用は私費から支出したので、図書購入の費用を予定より低く抑えることができた。その分は、2020年度に図書費用として支出する予定である。
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