2020 Fiscal Year Research-status Report
Political manipulation of legal science in GDR
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19K01245
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西川 洋一 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 名誉教授 (00114596)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ドイツ民主主義共和国 / 国制史 / 中世史 / ミュラー=メルテンス / ネイション |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルスの蔓延により、2020年度に予定していたドイツの文書館での調査が困難になることが予想されたので、急遽研究予定を変更し、法学との比較対象として当初から予定しており、公刊史資料によってある程度の実証研究が可能と考えられた歴史学に対する社会主義統一党(SED)に対するコントロールの研究に当面の課題を設定した。具体的には、DDRの歴史学界において、西側の歴史学界からも高く評価されていた中世史学者のエックハルト・ミュラー=メルテンスの中世ドイツ国家に関する研究の進展を、SEDの歴史学界に対する政策との関連で分析した。 ミュラー=メルテンスはDDRのマルクス主義歴史学者第一世代として、「市民的」(ブルジョア的)歴史家に訓練を受けつつ、史的唯物論に立脚した中世史像の形成を目指したが、1956年のスターリン批判にともなう修正主義批判で制裁を受けたこととベルリンの壁の構築でSEDから内面的に離反し、国内亡命の途を選ぶ。彼は強烈なネイション意識を有し、その立場から全ドイツの研究コミュニティーの維持を図って、研究において自由に西側の業績を引用したほか、MGHやハンザ研究を媒介に西側との制度的な人的交流も続けた。SEDの側は西側との制度的関係の維持に対しては多様な形で妨害したが、研究業績においては、彼はSEDの公定の歴史観から逸脱していることは明らかであったにもかかわらず、学界のアウトサイダーとなっただけで、研究成果公表に目立った支障はなく、西側での研究発表や文書館での調査も許されていた。この特権的地位は、彼が西側でも著名な学者であったにもかかわらず外面的に反抗を示さなかったことと、体制にとってさほど重要ではなかった中世史を専攻していたことによるものであった。SEDの歴史学に対するコントロールのありかたは、研究領域や対象研究者によって極めて多様だったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
何よりも新型コロナウイルスの蔓延により、ドイツでの資料調査ができなかったことの影響は大きい。これまでの史料調査で相当量の文書の複製を入手できたものの、それらを別の伝承でコントロールしなければ論文として発表できないため、これまでの研究の中断を余儀なくされ、当初SEDの法学の操縦と比較するための素材として考えていた歴史学の領域について検討を進めることになったため。
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Strategy for Future Research Activity |
SEDの歴史学における操縦・コントロールの実例としてのミュラー=メルテンスの例については、執筆中の研究論文を今年度夏までに脱稿する。その後は年度内のドイツでの文書館での研究実施を目指しつつ、当面は手持ちの史料での研究を続ける。「司法の民主化」の柱としての、いわゆる「人民裁判官」の養成とかれらの仕事の実態、大学での法学教育改革の問題を検討する。さらに、1950年代のバーベルスベルクで行なわれた法学のコントロールのための集会の分析を行なう。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス蔓延のため、比較的長期のものを予定していたドイツでの史料調査ができなかったため。この調査は研究遂行のために不可欠なので、2021年度に廻し、史料調査を行なう。翌年度分として当初請求していた額は、予定通り研究の取りまとめのために用いる。
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