2021 Fiscal Year Research-status Report
For understanding and establishment of "human dignity" as legal concept -- a basic study from the viewpoint of legal philosophy
Project/Area Number |
19K01253
|
Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
服部 寛 南山大学, 法学部, 准教授 (30610175)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 法哲学 / 人間の尊厳 / 尊厳 / 人権 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年目にあたる2021年度は、前年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の社会的・世界的な影響を小さからず受け、本研究が思うように進捗しなかった。国内外の資料収集等のための移動に大きな制約があり研究のための渡航などは事実上これを行うことができなかった。メインで取り組めたのは、本研究に関連する文献の収集と読解といういわばインプットのほうであって、尊厳概念に関する概念史・思想史にかかわる点のほか、国内外の社会の変化にともなう尊厳にまつわる諸問題について広く考察をはかることができた。しかし、インプットを進めるほど、尊厳概念にかかわる多面的な問題の複雑さを改めて考えさせられたこともあり、成果発表を性急に行うことについて慎重とならざるを得ないでいる。(人間の)尊厳の概念の射程について、尊厳の担い手(人間以外をも視線にいれた)と、担い手の内面・外面、担い手と面する側の状況など、きめ細やかな考察を進めており、例えば、尊厳の担い手が発するであろういわば「畏敬」とそれに対する受け手の状態などに目をやり、いわば「尊厳」の原初的な発現形態について、これまでの「森厳」概念の検討をも下敷きに、「尊厳」の発生的な局面について、主に日本の(法)思想史・文化史の局面から、それを把握するための足がかりを模索している。かかる発生的な局面の先行研究は、管見では、さほど多くなく、法学のみならず宗教学の方面など異分野の研究業績なども渉猟して、検討の手がかりを探っている。また、本研究以前に私が取り組んでいた、20世紀中頃の戦前・戦中~戦後にかけての法思想・法哲学の史的展開の文脈から、戦後の法秩序における「人間の尊厳」の定着の前段階における、戦時下の「尊厳」概念の議論状況についても、分析に従事している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
長く続いているコロナ禍のために、研究一般や教育ひいては生活における時間的・労力的な制約がかかり、本研究に注ぐべき時間やエネルギーが大きく削がれてしまっている。「研究実績の概要」欄で記したように、今年度はインプットに集中してしまい、情報過多気味となり、アウトプットとしてどのように成果の形にしていくかの点で、うまく計画を立てることができなかった。他面で、例えば、「尊厳」概念の概念史的側面については、これまで急ぎ気味に収集していた少なからぬ情報を改めて整理することに努めることも可能となり、論文や翻訳(書)などの発表に向けて態勢を整え直してもいる。ただ、3年次で予定していた研究計画については、2年次・3年次でのかかる進捗の遅れに鑑み、本研究の採択の当初のとおりには実現することが難しくなり、補助事業期間の延長を申し出た。これまで滞っている諸方面の成果を着実に発表できるよう、力を尽くしたい。コロナ禍において諸々の困難に直面した「生活」と「尊厳」との関係のほか、昨今のウクライナの情勢をはじめとした「尊厳」の危殆化の状況など、ここ数年で深刻化した「尊厳」をめぐる諸相についても、国内外で広く議論されているところを見つつ検討を深め、本研究の持つ意味についても改めて位置づけし直したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間の延長が認められ、2年次・3年次に予定していた計画に、腰を据えて取り組むべく、前進していきたい。人間の尊厳概念の総論として、これまでに引き続き、von der Pfordten説を中心に、(法)思想史的・法理論的な観点から、コロナ禍やウクライナの戦禍などをはじめとした近年の社会・世界の大きな変化をも視野に、人間の尊厳がいま持つ・果たす意味について、ブレない定点を提出することが、大きな課題となる。「日本の」状況としては、これまでの研究関心をもととして、人間「以外」の尊厳の担い手として、自然・神とのつながりを、「畏敬」概念との関連から発生的に明らかにしたい。さらには、ボン基本法制定「前」における「人間の尊厳」概念をめぐる議論状況についても慎重に分析を行い、20世紀の法哲学史における「人間の尊厳」概念の位置づけについても、とりわけ戦前・戦中の諸議論に目配せをしつつ、カント的な尊厳概念の理解ならびにカント以外の文脈における尊厳概念および関連概念を、法学以外の哲学・思想における尊厳概念をめぐる様々な議論の検討を通じて、「尊厳」概念の深みにまでしっかりと光を充てられるように検討をはかる。具体的には、ワイマール憲法に影響を与えたラッサールの見解の再検討、またカントに対するシラーの美学論(『優美と尊厳』)のテキストの読み直しから、自律という意味以外の尊厳概念の含蓄を明らかにする。加えて、日本語における「厳(いつ)」概念についても、これに関する日本思想における様々な議論を整理し、特に天皇の尊厳論との関連性を浮き彫りにしつつ、日本における「尊厳」の担い手としての「神」や「天皇」の固有の結びつきともいうべき点の解明をはかる。
|
Causes of Carryover |
2021年度においても、コロナ禍のため、資料収集や成果発表のための移動などを行うことができず、また研究が進捗しなかったこともあり、補助事業期間の延長を願い出て、1年間の延長が認められ、2020年度・2021年度に行えなかったものを、2022年度に行えるよう、2021年度(まで)の支出につき、緊縮した。もっとも、2022年度においても、移動の自由(の制限)をはじめ、時間・労力の制約も考えられるところであるが、引き続き、関連書籍の購入を中心とした文献・資料の収集につとめるほか、研究環境の整備についても行い、成果発表に臨むことにしたい。
|