2022 Fiscal Year Research-status Report
江戸時代の上方における幕府の機構と法令・裁判に関する実証的研究
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19K01256
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
小倉 宗 関西大学, 文学部, 教授 (40602107)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 幕府 / 江戸 / 上方 / 機構 / 法令 / 裁判 / 奉行 / 代官 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、関東とならぶ拠点地域であった江戸時代の上方において、①幕府がどのような政治機構を作りあげ、②そこでの法令と裁判がどのような内容や特徴を有したのかを学術的に問うものである。 2022年度の成果は次の通り。 (1)2022年8月にミネルヴァ書房より刊行された『論点・日本史学』において「江戸幕府の法―幕府はどのように法を整備・運用したのか―」と題する項目を執筆した。そこでは、8代将軍の徳川吉宗が整備した幕府の法の内容や特徴、幕府と藩の間や幕府の内部における法の多元性などにつき、最新の知見と研究上の論点を紹介し、今後を展望した。 (2)2023年3月、日本史研究会の近世史部会において「大坂からみた吉宗政権」と題する研究報告を行った。そこでは、江戸側の史料を用い、享保9年以前を主な対象とする従来の研究に対し、大坂側の史料を全面的に分析することで、享保10年代を中心に、将軍吉宗による政権運営のしくみや改革政治の特徴、およびその転換を実証的に明らかにした。 (3)2022年5月(奥付は3月)に刊行された法制史学会の学術誌『法制史研究』第71号の「令和2年法制史文献目録」において「日本法制史文献目録 織豊・江戸期」のパートを執筆した。そこでは、2020年に発表された日本法制史に関する単行本・論文等のうち近世(織豊・江戸期)の主な業績をとりあげ、その書誌情報を掲げた。 (4)2022年9月に京都市生涯学習総合センター山科 で「御触書にみる江戸時代の京都―享保期を中心に―」、12月に宇治市生涯学習センターで「江戸幕府の上方における統治のしかた―8代将軍吉宗の享保改革を中心に―」と題する一般向けの講演を行った。前者では、幕府の京都町奉行所から出された法令を読み解きながら、江戸時代の政治や社会のあり方を探り、後者では、幕府の上方における統治(支配)の独自なあり方とその時期的変化を解説した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の目的・方法としては、次の4つを柱としている。 ①江戸幕府に関する原史料(古文書)と刊行史料を幅広く調査・収集・分析することにより、上方における幕府の政治機構や法令・裁判のあり方とその歴史的な展開を実証的に明らかにする。②調査・収集した原史料のうち未刊行で重要なものを活字化(翻刻)・紹介する。③研究の成果を学会や研究会で報告するとともに、学術論文として発表する。④自治体や大学における講座・シンポジウムなどの場で、研究の成果を一般の方々に発信する。 このうち①と②については、博物館・図書館等で調査・収集した原史料と刊行史料をもとに、将軍吉宗の政権運営や改革政治に関する検討を進めるとともに、未刊行の重要史料を翻刻・校訂する作業に取り組んだが、学内外の業務の多忙などにより、それらの成果を学術誌等で公表することはできなかった。また、『法制史研究』編集委員として、2020年に発表された日本法制史に関する文献のうち近世(織豊・江戸期)の業績を網羅的に調査し、主なものを目録化した。 ③については、日本史の研究動向を解説する書籍において、吉宗が整備した幕府の法の内容や特徴、江戸時代の法の多元的なあり方などにつき、最新の知見と研究上の論点、今後の展望を述べた。また、従来未解明であった享保10年代を中心に、吉宗の政権運営や改革政治とその転換を大坂側の史料から明らかにし、その成果を学会で報告した。他方、日本近世史研究の入門書に掲載予定の原稿として、幕府の政治機構のしくみや特徴を解説し、主な研究の成果と視角・方法を紹介したものを2021年度までに入稿・修正したが、新型コロナウイルスの影響でスケジュールが遅れ、2022年度に刊行が実現しなかった。 ④については、享保期の京都や上方をフィールドに、幕府の政治や法に関する一般向けの講演を行った。 以上のとおり、当初の予定よりも進捗が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間の延長を承認され、最終年度となる2023年度は、次の4つを柱に研究を進める。 (1)以前に調査・収集した原史料(古文書)のうち重要なものとその関連史料について確認・照合や再調査を行う。具体的には、東京都や長野県、京都府・大阪府などの所蔵機関において江戸幕府に関する原史料を調査・閲覧し、デジタルデータやマイクロフィルムの紙焼き写真の形で収集する。 (2)幕府に関する未刊行の重要史料を活字化(翻刻)・紹介し、学術上の共有財産とすることは本研究の主な目的の一つであるが、それには多大な時間と労力を要する。そのため、江戸時代の古文書を解読する専門的な知識・技能を有した研究者の補助を得て、翻刻・校訂の作業に取り組む。また、それらの成果を学術誌等で発表するとともに、史料集として刊行するための原稿に編成する作業を進める。 (3)収集・整理した刊行史料や翻刻・校訂した原史料を分析するとともに、先行研究の成果や課題を把握・検証しながら、引きつづき、上方を主なフィールドとして、幕府の政治機構や法令・裁判に関する研究を深める。具体的には、日本近世史の全体像を展望する論文集のシリーズに掲載予定の原稿として、2022年度に日本史研究会の近世史部会で報告した内容をもとに、未刊行の重要史料を活用しつつ、将軍吉宗の政権運営や改革政治とその転換を大坂の側から解明した論文の提出と校正に努める。また、刊行が遅れている日本近世史研究の入門書に掲載予定の原稿については、校正の作業に万全を尽くし、2023年度の公表を目指す。さらに、京都・大坂・大津等に所在する幕府代官の組織や職務のあり方と時期的な変化について検討し、その成果を口頭報告や学術論文などの形で発表する。 (4)自治体や大学の講演・シンポジウムなどの場で、一般の方々にも興味深く、わかりやすい形で発信することにより、研究の成果を社会や国民に積極的に還元する。
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Causes of Carryover |
2022年度は当初、①日本各地の所蔵機関を訪問して江戸幕府に関する原史料(古文書)を幅広く調査・収集すること、②新たに収集した原史料のうち未刊行で重要なものを活字化(翻刻)・校訂すること、の2つを進める予定であった。しかしながら、学内外の業務の多忙などにより、①を実施することができなかったため、それに関する「旅費」の支出がなく、次年度使用額が生じる結果となった。また、各種の学会や研究会がオンラインで開催されることも多かったため、本研究に関連する学会・研究会に参加したり、それらの場で自らの研究成果を報告したりする際に、遠方へ出張することが少なくなり、「旅費」の支出がなかったことも、次年度使用額が生じた理由の1つである。 以上をふまえ、2023年度の使用計画としては、次の2つを想定している。 (1)幕府に関する未刊行の重要史料を翻刻・校訂するための「人件費・謝金」に使用する。 (2)以前に調査・収集した原史料のうち重要なものとその関連史料について確認・照合や再調査を行うための「旅費」等に使用する。
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