2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K01263
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
仁木 恒夫 大阪大学, 法学研究科, 教授 (80284470)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 司法書士 / 成年後見 / 紛争処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は本研究の準備的段階にあたる。その具体的な実績として、本研究が想定している司法書士活動についての探索的調査の実施と司法書士に関する司法統計および先行研究のとりまとめの二つがあげられる。 本研究においては近年多くの司法書士が進出している成年後見業務に関連して紛争処理活動が必要とされる事例の分析をおこなう。そのための事例収集を予定しており、2019年度はその探索的調査を実施した。司法書士によるこのタイプの活動の可能性に早い時期から関心を寄せていた関東地域の司法書士への聞き取り調査をおこなったが、福祉的特徴をもった活動への司法書士の関心はさらに刑事分野へも拡大しつつあることが明らかになっている。そして、それとあわせて、司法書士の活動が高度な専門職倫理をいっそう自覚しなければならなくなっている状況も発生していることを確認している。 また、2019年度はこれまで進めてきている司法書士に関する司法統計や先行研究の検討を整理することを予定している。その成果の一部として、2019年5月11日に千葉大学で開催された日本法社会学会のミニ・シンポジウム「法専門職と簡裁代理」において、報告「『庶民の裁判所』と『くらしの法律家』」をおこなった。司法制度改革によって司法書士の簡裁代理権が導入された前後の簡易裁判所・地方裁判所の事件数、司法書士・弁護士の人口や代理件数などをふまえて、この時期の司法書士の裁判所を中心とした紛争処理業務にみられる特徴を明らかにしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は本研究の準備段階であり、具体的な作業としては、資料や文献のとりまとめとその一部の公表、今後の事例収集のための探索的な調査の実施、解釈法社会学の分析枠組の再検討を予定していた。これらの作業は順調に進んでいる。 第一に、司法制度改革少し前からの司法統計資料やこの間の裁判実務の動向、司法書士の紛争処理に関する文献を調査し、暫定的ではあるがその概要を整理している。その成果の一部は日本法社会学会において「『庶民の裁判所』と『くらしの法律家』」として報告した。 第二に、今後の事例収集のための探索的な調査を実施して、成年後見に象徴的な司法書士の福祉的特徴をもった活動の拡張と、専門的倫理の問題の浮上が確認されている。 第三に、事例分析のさいに依拠する解釈法社会学の枠組の再検討をおこなっている、Ewick、Silbey、Yngvessonらの文献、さらにこれらの論者の影響を受けているわが国の和田、西田らの研究を検討した。同じ解釈法社会学的手法ではあるが、日米で資料の扱い方に違いもみられることから、あわせてポストモダン人類学のエスノグラフィ方法論の再検討をおこなった。 理論的・方法論的な枠組となる解釈法社会学の文献調査では、当初は予定していなかったエスノグラフィ方法論の再検討にも着手することになったが、概ね予定どおりに研究は進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
司法書士および解釈法社会学に関する文献調査は引き続きおこなう。それらの作業とあわせて、2020年度は、事例収集とアメリカでのindependent paralegal調査により重心を置いて研究をすすめる予定である。 まず事例収集については、この問題に意識的に取り組んでいる司法書士への聴き取りを実施する予定である。司法書士は活動地域と密接にかかわっており、そのことが成年後見業務から派生する紛争処理業務にも影響を及ぼすものと推測される。そこで、都市部だけでなく地方での活動事例についても調査をおこなう。 また、日本の司法書士のこのタイプ活動を相対化するため、アメリカの一部の州で活動するindependent paralegalによる高齢者支援業務の調査をおこなう。アメリカも、法曹ではなくparalegalの業務としてこのタイプの活動が認知されている。文献および聞き取り調査によりその実情を把握し、わが国の司法書士の活動と比較検討をおこなう。 なお、本研究は、当初より以上の計画ですすめているが、現在の新型コロナウイルスによる混乱をふまえて、状況により臨機応変に対応することも考慮する必要がある。
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Causes of Carryover |
探索的な予備調査に続いて本調査に着手する予定であったが、日程調整の関係から2019年度内に実施できなかった。その分を今年度の調査に充当し、当初予定していた調査をあわせて集中して実施する予定である。 また、アルバイトを雇用してより広範な資料の整理をおこなってもらう。2019年度の学会報告準備から開始した司法統計データについてさらに幅広く整理することを予定している。また、司法書士との研究会での詳細な記録の作成を依頼する。
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