2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K01263
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
仁木 恒夫 大阪大学, 法学研究科, 教授 (80284470)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 司法書士 / 成年後見 / 紛争処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は前年度に続いて実態調査による資料収集を予定していたが、感染症の影響のため調査が実施できなかった。そこで、前年度に収集した資料をもとに、多職種の連携による障碍者の支援の一角に司法書士が関与した3つの事案の検討をおこなっている。本研究が採用する解釈法社会学の理論枠組によりつつ、支援対象者(障碍者)の「支配」に対する「抵抗」がおこりうることが確認されるが、成年被後見という特殊な状況においては、より複雑な考慮を必要するという理解を獲得している。 また解釈法社会学の枠組の理論的な検討についてはすでに前年度に整理しているが、これと密接な資料分析の方法論としてとくに人類学者のCrapanzanoのエスノグラフィの検討をおこなった。研究者自身の発話が埋め込まれた多声的な資料に依拠して、研究者の変容も明らかにする手法を、今回の司法書士による司法ソーシャルワーク的活動にどのようにいかせるかを検討している。多声的な資料の分析については、その成果の一部として、現在、訴訟利用経験者の紛争経験に関する論文を別途作成しており、公表を予定している。 日本の準法律家(Paralegal)である司法書士の活動を相対化・多角化して、その特徴を浮き上がらせるために北米のParalegalの調査を予定していたが、これも感染症の影響で実施はできていない。そこで、現在の制約の中で同様の効果を期待できる実施可能な方法として、日本の弁護士の司法ソーシャルワーク的活動について、文献に基づく研究をおこなった。前年度の調査では司法書士が刑事事件の領域にまでこの活動の展開を考えているという情報を得たが、刑事事件関連の司法ソーシャルワークに関しては弁護士による活動は弁護士会レベルで安定したサービス提供体制が確立されていることがうかがわれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年目の2020年度は、事例収集とアメリカでのParalegal調査という本研究の中心的な調査活動を計画していたが、周知のとおり感染症の影響を受けて、研究計画を変更をせざるを得なくなっている。 司法書士、紛争処理、成年後見制度などにかんする文献調査や分析枠組とする解釈法社会学の理論的検討は順調に進んでいる。また、経験的調査資料の分析手法についても、調査者を俯瞰的な地位に置くのではなく、特定の視点として分析のなかに組み込んだ多声的な研究手法を検討してきた。 他方で、2020年度は、予算の執行状況にもあきらかなように、感染症の影響により予定していた実態調査がまったく実施できなかった。また、同様に、予定していた比較法社会学的な調査も実施できていない。前年度の調査から示唆を得た司法書士による刑事司法領域での司法ソーシャルワーク的な関心などそれに代替する側面での研究の充実をはかっており、予定外の成果を得ているが、当初予定していた調査計画をできるかぎり今年度に実施するように計画を再構成している。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度、実施することができなかった実態調査については、できるかぎり2021年度におこなうよう計画を立て直している。 第一に、事例収集のための調査として、優先的に地方での司法書士の活動についての調査をおこなう予定である。本来的に司法ソーシャルワーク的な活動が期待されていた高齢者の多い地方では、成年後見業務との結びつきで活動実態があることが推測される。すでに2021年度の前半に調査の実施計画をたてている。 第二に、可能であれば、都市部での事例収集のための調査も実施する。初年度に実施した都市部の調査は探索的なものであり、さらに事例を補充して検討することが望ましい。より早い時期に調査が可能になる環境が整えば、調査を実施できるように体制を確保しておく。 第三に、アメリカでの調査は、2021年9月頃の状況をふまえて、可能であれば12月頃に実施を計画している。海外での調査は制約が大きいので、実施が難しいようであれば、文献による知識の補充にとどめる。 文献に基づく研究は順調にすすめてきたので、そこで獲得された理論枠組にそって、まずはすでに収集された事例での分析を整理する。今後の調査での資料の補充を見込んで、研究の取りまとめを予定しているが、感染症の状況により限られた資料しか確保できない可能性もふまえて、理論的研究により重点を置いた最終的な研究成果の整理も計画している。
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Causes of Carryover |
2020年度は世界的な感染症の影響のため、本年度の中心的な活動として予定していた国内外の調査をまったく実施することができなかった。そのため予定していた旅費が支出されていない。予定していた調査を最終年度に実施するように研究計画を再構成しており、今回発生した次年度使用額はそれに充当する予定である。
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