2019 Fiscal Year Research-status Report
Research on inheritance and land registration in French law
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19K01267
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
小柳 春一郎 獨協大学, 法学部, 教授 (00153685)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 相続登記 / 不動産登記 / フランス法 / 所有者不明土地 / 専門家 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究実績として,第一に,資料収集,第二に,論文発表,第三に,学会発表がある。 第一の資料収集であるが,フランス相続法,共有法(物権法),不動産登記法関連の資料収集を行った。最近の動きだけでなく,歴史的考察も行う本研究では,19世紀にさかのぼる歴史的文献の調査,収集を行った。 第二の論文発表であるが,①「地面師・成りすまし不動産詐欺と公証人認証」Evaluation 69号は,本研究の一つのキー概念である法律専門家とりわけ公証人の役割について検討を行った論文である。②「土地基本法見直し「中間とりまとめ」における土地所有者の「管理」の責務―――物理的管理と法的管理―」土地総合研究28巻1号は,土地所有者の管理の責務を規定した土地基本法改正案について検討した。ここでは,登記の責務の性格を論じ,責務論を根拠に登記義務論を導きうることを論じた。③「「中間試案」における土地所有権の放棄:「最後の手段」としての認可制による国への帰属」ジュリスト1543号は,法制審議会が2019年12月に発表した所有者不明土地問題対策の中間指針のうち,所有権放棄に関する検討である。 第三の学会発表として,①日本私法学会における拡大ワークショップ「所有者不明土地問題と民法」においてコメンティターをつとめた。②「日本台湾法律家協会2019年度(第24回)学術研究総会『不動産、特に土地所有と開発に関する諸問題』」でもコメンティターをつとめ,台湾でも相続登記義務付けがあることなどを論じた。③米国の学会でもLand registration system and unclaimed land in Japan; 2019 Annual Meeting of Law and Society Association, を行った。各国の参加者から,同様の問題の指摘を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の研究は,第一の資料収集では順調に進行し,第二の論文発表はいくつかの主要問題の検討を進め,第三の学会発表では,海外研究者との連携を深めることができた。それゆえ,おおむね順調な進行であると考える。 第一の資料収集では,文献資料収集が着実に進行しつつある。1855年のフランス登記法制定時の文献のみならず,1935年のフランスにおける相続登記制度の導入時の議論を明らかにしつつある。 第二の,論文発表では,相続登記義務は結局,公法上の義務と考えられるが,そのような義務を課する根拠に何を求めるかが問題である。一応,改正土地基本法は,土地所有者に管理の責務を課し,さらに,登記の責務も課する。しかし,売買契約においては,買主の登記義務を課すべきとはされておらず,私的自治に任されている。これとの関係で相続登記はなぜ義務付けられるべきなのか,相続登記の現状に問題が多く,それが引いては,所有者(共有者)の問題だけでなく,社会的混乱を招くがゆえに,私的自治に放置できないことなどを論文で明らかにした。 第三の,研究発表では,日本私法学会という最大規模の学会でコメントをすることにより,多くの研究者との交流を深め,また,台湾の研究者とも交流が可能になった。米国の学会発表では,オランダの研究者から,オランダでも所有者不明土地問題が農地について存在するとの反応を得た。台湾でも相続登記は義務であり,この問題は思った以上に国際的広がりを持っていることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方向は二つにおいて存在する。第一は,フランス法の理解の深化であり,第二は,日本の所有者不明土地問題解決のための,法務省サイドで進行中の法律案の検討である。 第一については,すでに,フランスの実務家・研究者との間で構築したネットワークを活用する。残念なことに,フランスでは新型コロナウイルスの影響が強く,多くの死者が出るなど社会的混乱が生じている。この点で,現地調査が容易でなくなってきているが,コロナ対策の進展を待って,現地調査を行いたい。なお,論文としては,「フランスの2018年所有者不明土地対策新法(海外領土遺産共有解消法):持分過半数発動による処分行為(共有不動産売却及び協議分割)の許容」論文を完成し,初校の段階にあるので,これが6月頃に公表される。これは,コルシカとともに所有者不明土地問題が深刻な海外領土における所有者不明対策立法を,民法の規定との関連で検討したものである。相続登記をさせる場合に,専門家が関与するとしてどの程度費用負担になるのか等についても検討を進める。 第二については,すでに,中間試案が公表されたが,膨大な内容であり,理解自体が容易ではない。この点についても,他の研究者との連携を含め,検討を行う。政府の方針としては,相続登記を義務づけるようであるが,その際に,従来の相続登記,遺産分割の結果の登記に加えて,新しい持分のない登記(相続人申告登記(仮称)」)を検討している。これとフランスにおける相続登記との関係及び遺産分割との関係を明らかにすることが今後の課題である。
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Causes of Carryover |
海外調査を2020年3月に行う予定であり,そのための予算が約30万円あったが,2020年1月頃より,新型コロナウイルス蔓延の状況になり,フランスは2月から状況が深刻になり始め,結局,調査を中止した。状況の改善を確認してから調査を実施したい。
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Research Products
(9 results)