2022 Fiscal Year Research-status Report
Research on inheritance and land registration in French law
Project/Area Number |
19K01267
|
Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
小柳 春一郎 獨協大学, 法学部, 教授 (00153685)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 相続登記 / 土地情報 / フランス法 / 所有者不明土地 / 公証人 / 民事警察 / 地籍情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度の研究実績として,第一に,資料収集があり,第二に,論文・学会発表がある。 第一の資料収集であるが,フランス相続法,不動産登記法,地籍制度関連の資料収集を継続した。本研究は,とりわけ,19世紀にさかのぼる文献の調査,収集を継続した。 さらに、2022年9月には、フランス・オートマルヌ県公文書館で地籍文書の閲覧検討を行った。具体的には、特定の土地(水車用地)の地籍図、土地台帳等を19世紀から20世紀中盤までたどる作業を行うことができた。その結果、次のことが判明した。①地籍編成時に死亡者の登録があった。当該土地の所有者は、村長兼大地主であり、ほかにも相当の不動産を所有していたが、同氏は、地籍編成時には、死亡届の資料を見ると、実はすでに死亡していた。②共有所有者でも、単独名義の地籍登録があった。同地の相続人である娘は、売却をしたが、売買契約書は、買主共有(夫と妻)であったのに、地籍台帳には、夫のみの名義が登録されていた。③名義人の死亡後も、直ちには、地籍上の名義は変更されない。夫だけでなく、妻の死後、息子が地籍上に名義人として登録された。④相続登記制度がなくても、ある程度土地所有者の歴史をたどることができる。地籍上の所有者をたどることで、土地の所有権移転(相続・売買)の歴史をたどることができる。 こうした国家による相続情報入手の制度があることが、相続登記制度を補完するものとして重要な役割を果たした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランスでは、相続登記制度導入前に、地籍を通じた所有者把握が行われており、これが土地所有権の歴史をたどる場合に、有効な情報提供をしていたことが判明した。この登記制度と地籍制度の連関が今回の研究における重要な発見であり、この点で、本研究は、おおむね順調に進捗していると判断できる。 具体的に述べれば,相続が発生した場合に,相続申告(declaration de succession)の制度が存在し,これにより,一定の登録税を支払った。これが地籍情報の変更につながっていった。もっとも,いわゆる死亡届(身分証所の死亡記録)は,これと直接リンクしていなかったようであり,死亡があっても,直ちに,地籍情報の変更になっていない場合がある。これは,現代日本でも同様の例である。 とはいえ、これは税法上の制度であり、それ故、民事法的な所有権の存在と一致しない場合がある。それ故、①この故に、真実の相続人ではない、表見相続人から善意で土地を取得した者が、真実の相続人からの返還請求を受ける場合があり、この危険を防止するために、表見所有権(propriete apparente)の法理が発達した。②所有者の歴史をたどることが困難であるという理由から、(1855年登記法が登記の対象としなかった)相続登記制度が必要とされた(例えば、Emmanuel Besson, Les livres fonciers et la reforme hypothequaire, 1891, p.129)。 相続登記だけでは、相続移転の真実性は確保されない。このため、フランス法で初めて、相続登記を導入した1935年デクレが、相続登記されるものとして、公証人証書(attestation notariee)として、公証人の関与を要求した。相続登記では、実体的な権利の真正を確保する仕組みと形式的な公示とが結びつくことが必要である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後には,①一方では,地籍制度のより精密な情報把握に努め、②他方では、とりわけ相続登記を導入した1935年デクレーロワの理解を進める。 ①フランスの地籍は,所有者等の変更があれば,地籍上の情報が変更され,それに基づき,不動産税の債務者が変更される。これが相続についての公的情報把握の制度である。もっとも、これについて、調査実例が明らかにするように、実際は共有であるのに、単独所有になっていたり、死亡があり、死亡届がだされていても、地籍上の所有者情報が更新されない場合がある。この点をより精密に検討する。 ②フランスの相続登記は、1935年10月30日デクレーロワ(decret-loi du 30 octobre 1935 modifiant le regime de la transcription)によって、導入された。これについての評価は、この制度は、二重売買のような対抗要件の制度ではなく、土地所有権の歴史をたどるための情報提供の制度であり、police civileの制度であるとして評価されている(例えば、Pour une modernisation de la publicite fonciere: Rapport de la Commission de reforme de la publicite fonciere, 2018, p.21)。このpolice civileは、日本法に直接対応するものが存在せず、理解しにくい概念である。なお、デクレ制定当時の報告は、デクレの目的を不動産所有権の歴史をたどり、取引の安全を確保すると述べている(JOURNAL OFFICIEL,31 octobre 1935, p.11463)。この点の検討を行う。
|
Causes of Carryover |
コロナの影響により、フランス出張が容易でない状況があり、予定していた出張が実現できず、2023年に出張を延期することになったため。
|
Research Products
(3 results)