2020 Fiscal Year Research-status Report
19世紀と21世紀のセルビア民法典--近代法受容をめぐる法典間の継承と断絶
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19K01269
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
伊藤 知義 中央大学, 法務研究科, 教授 (00151522)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | セルビア / クロアチア / ボスニア / 民法典 / 近代法継受 / イスラム法 / オスマン帝国 / ハプスブルク帝国 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度においては、6月に「クロアチアにおける同性カップル法制化と近代法経験」『中央・ロージャーナル』17巻1号と「セルビア剥奪財産返還補償法―近代法への回帰と社会主義時代の清算はどこまで進んだか―」『社会体制と法』第18号の2本の論文を発表した。前者では、正教とカトリックという宗教の違い、および近代化の進展具合が表題のテーマにどう関連していたかを分析した。後者では、オーストリア一般民法典の影響を受けた法制度をともに採用していた両国が、それ以前のトルコ法の影響とハンガリー法の影響により、どのように違っているかという視点に注目した。ほぼ同じ言語であるセルビア語とクロアチア語を使用する2つの民族が、近代に至る以前に、イスラム教国であるオスマン帝国とカトリック教国であるハプスブルク帝国の支配下にあったという違い、さらにその結果でもあるが、近代社会および近代法の形成について、大きく異なった経験をしたことが、現在の両国の違いに繋がっていることが確認できた。20世紀になってからユーゴスラビアという1つの国の中で70年にわたり共存してきたという歴史は、それ以前の数百年にわたる別々の歴史から生まれた状況を決定的に変えることはできなかったと言ってよいだろう。 セルビアの1844年民法典の分析を進めて行くうちに、400年にわたるトルコ占領下の法制度がこの地域の法にどのような刻印を残しているか、という点にも関心が広がり、セルビアと異なってトルコ統治下でイスラム教を受容したボスニア人が近代法を継受する過程とセルビアの近代法継受とを比較することの重要性を感じた。そこで、ハプスブルク帝国統治下のボスニアにおける近代法受容に関して研究を進め、12月に北海道大学で開催された「体制転換と法」研究会でこれに関する報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献調査や研究発表は着実に進んでいるが、新型コロナのために、国外出張をして現地で資料を収集したり、先方の研究者と対面で意見交換をすることが不可能な状態であるため、全て予定通りというわけにはいかない。 現在の進捗状況としては、1844年セルビア民法典が、セルビアの近代法受容においてどういう意味を有するかという問題の前提に関わる作業として、トルコ法の影響について研究を進めている。イスラム教を受容したボスニアと正教を維持したセルビアでは、大きな違いがあることを否定できないが、400年にわたり同じオスマン帝国の統治を受けた両地域の共通性もあるはずであり、その間の事情の一端を解明する作業を継続中である。
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Strategy for Future Research Activity |
手元には、セルビア語(ボスニア語)、ドイツ語、ハンガリー語の資料が相当程度集まった。しかし、より深く問題を理解するためには、現地に赴き、ベオグラードやノヴィサド、サラエボ、アンカラ(トルコ)などの研究者と意見交換することが非常に重要である。ところが、新型コロナウィルス感染症により、これらの地域に出張することは不可能な状態に陥っている。この状態がいつまで続くか全く不明だが、ネット上で入手可能な関連文献(図書、論文)の収集を進めて情報のアップデートに努め、現地で調査できる日を待つしかない。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症による渡航制限の結果、ヨーロッパに出張して資料収集を行ったり、現地の研究者と対面で意見交換をすることが不可能となり、旅費の支出ができない状態が続いているため。
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