2021 Fiscal Year Research-status Report
19世紀と21世紀のセルビア民法典--近代法受容をめぐる法典間の継承と断絶
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19K01269
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
伊藤 知義 中央大学, 法務研究科, 教授 (00151522)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近代法継受 / セルビア民法典 / ハンガリー / ハプスブルク / ボスニア / オスマン帝国 / 東西ヨーロッパ |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度においては、2022年3月に「ハンガリー『反LGBT法』と『ヨーロッパ的価値』」『中央ロー・ジャーナル』18巻4号(2022年3月)を発表した。これは、セルビア民法に直接関連するものではないが、セルビアにおける近代法継受の歴史を考えると、間接的には重要なテーマを扱ったものである。1844年セルビア民法典は、オーストリア一般民法典をモデルとしたものであるが、同法典は、ハプスブルク帝国内のハンガリー王国部分にも適用されており、そこでの法実務が1844年セルビア民法典制定に直接影響を与えている。というのは、オスマン帝国から解放された後のセルビアにおいて、セルビア政府に協力を求められて法典編纂の中心人物として活躍した者たちが、かつてオスマン帝国から逃れてハンガリーに移住したセルビア人の子孫たちだったからである。そのハンガリーにおける近代法継受や法意識がオーストリアを含む現在の西欧地域とかなり異なっている部分があることについて検討したのが上記の論文である。 セルビアの1844年民法典の分析を進めて行くうちに、400年にわたるトルコ占領下の法制度がこの地域の法にどのような刻印を残しているか、という点にも関心が広がり、セルビアと異なってトルコ統治下でイスラム教を受容したボスニア人が近代法を継受する過程とセルビアの近代法継受とを比較することの重要性を感じた。そこで、ハプスブルク帝国統治下のボスニアにおける近代法受容に関しても研究を進めている。これについては、前年度に口頭報告したが、現在、論文にまとめる作業を継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献調査や研究発表は着実に進んでいるが、新型コロナのために、国外出張をして現地で資料を収集したり、先方の研究者と対面で意見交換をすることが事実上不可能な状態であったため、全て予定通りというわけにはいかない。 現在の進捗状況としては、1844年セルビア民法典が、セルビアの近代法受容においてどういう意味を有するかという問題の前提に関わる作業として、トルコ法の影響について研究を進めている。イスラム教を受容したボスニアと正教を維持したセルビアでは、大きな違いがあることを否定できないが、400年にわたり同じオスマン帝国の統治を受けた両地域の共通性もあるはずであり、その間の事情の一端を解明する作業を継続中である。
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Strategy for Future Research Activity |
手元には、セルビア語(ボスニア語)、ドイツ語、ハンガリー語の資料が相当程度集まった。しかし、より深く問題を理解するためには、現地に赴き、ベオグラードやブダペスト、ノヴィサド、サラエボ、アンカラ(トルコ)などの研究者と意見交換することが非常に重要である。ところが、新型コロナウィルス感染症により、これらの地域に出張することは不可能ではないが困難な状態に陥っている。この状態がいつまで続くか全く不明だが、ネット上で入手可能な関連文献(図書、論文)の収集を進めて情報のアップデートに努め、現地で調査できる日を待つしかない。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症により、調査や資料収集を目的とした海外渡航が全くできず、旅費を支出する機会がなかったため。
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