2023 Fiscal Year Research-status Report
19世紀と21世紀のセルビア民法典--近代法受容をめぐる法典間の継承と断絶
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19K01269
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
伊藤 知義 中央大学, 法務研究科, 教授 (00151522)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | セルビア / ボスニア / ハプスブルク / ハンガリー / 近代法継受 / 台湾 / 憲法裁判所 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度においては、前半は、台湾でのサバティカルを継続した。セルビアと同じく近代法を継受した非西欧圏すなわち西欧周辺諸国の1つである台湾において、日本統治期にどのように近代法を導入したかを検討し、それをセルビアおよびボスニアの状況と比較するためである。 2022年度後半と同様、台湾大学図書館、國立臺灣図書館、高雄文献研究センターなどの各施設において、台湾統治期の日本語文献を中心に、統治開始から50年にわたる期間内に、台湾が近代法をどのように受け入れたか、統治以前の前近代的法制度をどのように近代法に適合させていったかを検討した。それが、前近代的法制度を有していたセルビアおよびボスニアの状況とどのような共通点・相違点を持っていたかを分析した。 2023年度後半は、セルビア、ボスニア両国に対して、近代法のモデルとして決定的な影響を与えたハプスブルク法、特にハンガリー法を比較対象として検討を進めた。その一貫として、社会主義崩壊後の現在のハンガリー憲法裁判所が下した、性別および名前の変更に関する4つ判決ならびにハンガリー憲法裁判所法の内容を分析し、ハンガリー憲法裁判所がEU本部の批判するような反近代的な法運用をしているのか、する構造になっているのかを明らかにした。西欧周辺の中でももっとも西欧に近い東欧地域の近代法継受とその現代的成果について考える材料とするためである。その成果は、2024年6月発行の中央ロー・ジャーナル21巻1号に発表される予定であり、すでに二校まで終えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献調査は着実に進んでおり、日本統治期における台湾の日本語図書や新聞を中心とした資料の収集、分析を行い、これを比較材料として、1844年セルビア民法典の構成や非近代的要素の残存具合、隣国ハンガリーの状況の検討を進めた。 2015年のセルビア民法典草案は、パブリックコメント募集を経て、すでに提案から10年近く経過したのに、なお法律としては成立していない。そのため、現在の進捗状況としては、1844年民法典との比較対象としての新民法典の内容は確定されていない状況である。だが、草案自体の検討は進めており、最終的に民法典が成立した曉には、さまざまな論点が一層明らかになることが想定される。
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Strategy for Future Research Activity |
1844年民法典と近い将来に成立するであろうセルビア新民法典とを架橋する中間に位置する、社会主義時代のセルビア民法についても研究を広げる。具体的には、1978年の債務関係法および1980年所有関係基本法の内容を精査して、1844年民法典がどこまで影響を与えているか、同法典にない要素と社会主義法との関係を明らかにしたい。隣国ハンガリーでは、2013年に新民法典が採択された。ハンガリーについても、1959年の社会主義民法典とこの2013年民法典の関係を分析し、セルビアとハンガリーとで近代法継受の様相がどのように異なっており、どのように類似していたかというテーマにも取り組む。その成果の一部は、2024年6月の比較法学会で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、予定していたヨーロッパ訪問調査ができずに、予算を繰り越した。2024年度には、ハンガリーおよびボスニアを訪れて、関係する資料を収集し、現地の研究者と意見交換する予定である。
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