2019 Fiscal Year Research-status Report
Judicial Review in the Global, Information and Risk Society
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19K01276
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大林 啓吾 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (70453694)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生ける憲法 / 司法のグローバル化 / 司法積極主義 / 憲法訴訟 / 社会変化の法理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①グローバル化、情報化、リスク社会化という現代社会の特徴が司法審査にどのような影響を与えているのかを明らかにし、②そのような司法審査の姿が憲法上望ましいか否かを検討することを目的とするものであり、まずは、裁判所がどのようにグローバル化の影響を受けているかについて、生ける憲法の観点から検討した。 グローバル化の影響の結果、裁判所が国際状況を踏まえながら憲法判断をする機会が増え、時にそれが違憲判決につながることから、司法審査は積極化する傾向にある。そこで、外国における生ける憲法の概念を分析するため、令和元年度は、国際公法学会(2019 The International Society of Public Law (ICON-S) at Pontifical Catholic University, Santiago, Chile, July 1, 2019)で生ける憲法に関するパネルを組み、アメリカ、カナダ、南アフリカ、日本の現況を報告した。私はAd Hoc Living Constitution in Japanを報告し、ディスカッションを通して各国の異同を理解することができた。 また、生ける憲法論が最も盛んなアメリカの議論を理解・分析するために、『アメリカの憲法訴訟手続』(成文堂、2019年)と「現意主義――ケネディ裁判官の法思想」アメリカ法 2019(1) 1-28頁(2019年)を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は順調に進んでいる。令和元年度は、司法のグローバル化と生ける憲法に焦点を絞り、本研究の比較対象国であるアメリカ、カナダ、南アフリカがどのように生ける憲法を実践しているのかを考察した。各国の間では、生ける憲法の主体、憲法解釈方法、憲法構造などに違いがみられるものの、生ける憲法の議論は司法による憲法秩序形成を認めることを確認できた。また、アメリカの生ける憲法につき、憲法訴訟制度を分析し、裁判官個人の技量によって司法審査の積極主義が可能になっていることを理解し、実際にケネディ裁判官が生ける憲法を実践してきたことを確認した。日本でもこの発想が馴染む余地があれば、司法審査の現状を正当化する議論を提示することができると考えている。今後はさらに情報化やリスク社会化との関係について研究を進めていく予定である。 なお、2019年の国際公法学会では、イギリスやインドの研究者も一緒に研究報告をする予定であったが、彼らは諸事情により参加できなかった。そのため、今後は、アメリカ、カナダ、南アフリカを中心に研究を進め、イギリスやインドについては比較が必要になってきた場合に適宜メール等でアドバイスを求める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はそこで得た知見を基に生ける憲法の研究をさらに進めるとともに、司法審査とグローバル化、情報化、リスク社会化の関係を分析する。第一に、司法のグローバル化につき、『裁判所と世界』(ブライヤー著)の翻訳を引き続き進める。第二に、ICONや法と社会学学会(LSA)などの国際学会、またLoyola大学ロースクールのAnnual Constitutional Law ColloquiumやBarry大学ロースクールのAmerican Constitution Society Fourth Annual Constitutional Law Scholars Forumにおいて、司法審査の現状を正当化する理論を報告し、質疑を経て精緻化をはかる予定である。第三に、Jonkerを招き、南アフリカの生ける憲法の状況を解説してもらい、日本との異同について議論を行う。第四に、リスク社会における司法審査のあり方について検討し、論文を執筆する。第五に、昨年度の研究成果において、アメリカの憲法訴訟制度が裁判官個人の影響を受けやすいという基盤の下、ケネディ裁判官が生ける憲法を実践したことを明らかにしたので、近時の判例動向を追いながら、そうした傾向がみられるかどうかを考察する。 なお、新型コロナウイルスの関係で、国際学会等が開催されなかった場合には、翌年に繰り越す予定である。
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