2022 Fiscal Year Research-status Report
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19K01278
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Research Institution | Takaoka University of Law |
Principal Investigator |
石崎 誠也 高岡法科大学, 法学部, 学長 (20159718)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 抗告訴訟の性質 / 取消訴訟の性質 / 行政処分 / ドイツ行政訴訟法 / ヨーロッパ法の影響 / 行政処分の司法審査 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、ドイツ行政訴訟法理論におけるEU法の影響を調査するため、ドイツの行政法研究者及びドイツ行政裁判所裁判官にヒアリング調査を行った。 ヒアリングにあたっては、予め(1)AEUV(EU 運営条約)263条4項の無効確認訴訟とドイツ行政裁判法の取消訴訟または確認訴訟との異同、(2)同条約263条4項の出訴資格とドイツの保護規範論との異同、(3)同項の行為(Handrung)とドイツ行政裁判法における行政行為(Verwaltungsakt)との異同等の質問を送付した。 これに対し、共通した回答は、実体法はEU法が適用されるとしても、訴訟法は各国法の問題であり、ドイツの行政訴訟法の基本構造は変化していないというものであった。特に、コプレンツ行政裁判所長官のGeis博士からは、EU指令により環境法等に団体訴訟制度の導入が行われたが、これはドイツ行政法にとって例外的であり、ドイツ行政訴訟制度が主観的権利保護を基本とすることには今後とも変化がないと述べた。また、オルデンブルク行政裁判所Knickmeier裁判官から、行政訴訟実務における客観違法の取り扱いについて説明を得た。但し、同氏はヨーロッパ法がドイツ保護規範理論に対し、その理論的反省を迫るであろうという見解を有している。 (2)文献研究として、Schmidt-Assmann, Verfassungsprinzipien und den Europaeischen Verwaltungsverband(2023)及びSoenke Knickmeier, Europaeisierung des Verwaaltungsprozessrechts im Diskurs der Rechtwissebschaft(2021)によるEU法のドイツ行政訴訟制度への影響に関する学説研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヨーロッパ法のドイツ行政訴訟法への影響は、2019年と2023年の2回のヒアリング調査と文献調査で、問題状況及びドイツ行政訴訟法学が抱える問題点を知ることができた。特に、ドイツ行政裁判所裁判官のヒアリングは有益であった。 また、ヨーロッパ法及びドイツ法においても行政行為に対する裁判所の審査密度が重要テーマであるが、それに関連して、我が国の裁量処分に対する司法審査のあり方をまとめた。これは、抗告訴訟性質論に関連するものである。 しかしながら、我が国の抗告訴訟に関する学説の展開に関する研究は、田中二郎の学説の推移を調べる予定であったが、十分に進展させることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、まずドイツ行政訴訟法におけるEU法の影響を、Schmidt-Assmann,及びKnickmeierの文献研究という形で引き続き行い、これらの研究及びこれまでのドイツでのヒアリング成果を申請者の所属する研究機関(大学)の紀要に発表する予定である。 申請者は、取消訴訟という訴訟構造(直接攻撃型訴訟)が有する客観訴訟的性質に注目し、その機能を考察すべきであると考えている。また、その性質は、抗告訴訟として法定された義務付け訴訟及び差止め訴訟にも当てはまると考える。すなわち、抗告訴訟は行政処分の作為・不作為の客観的違法性を審査するものであって、訴訟について請求権的構成をする必要はないし、本案要件に権利侵害要件を求める必要もないと考えている。 しかしながら、歴史的には取消訴訟は権利毀損に対する訴訟として形成され、さらに当時における公定力の実体法的把握と結合して、公定力排除訴訟という取消訴訟観が美濃部達吉・田中二郎によって形成された。美濃部・田中はそれを抗告訴訟と称し、それが戦後の包括的抗告訴訟概念につながっている。 今年度は、本研究の最終年度であるが、上述した申請者の抗告訴訟観をベースに田中二郎の抗告訴訟論を批判的に検討し、さらに塩野宏の抗告訴訟論並びに今日において抗告訴訟と当事者訴訟の関係を考察している中川丈久の抗告訴訟論を分析して研究のまとめを行う予定である。併せて、基本的に主観訴訟性を維持しようとするドイツ行政訴訟法理論の批判的検討をEU法との関係で検討することによって、その結果を本研究に反映させることができると考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ問題のため国内での文献調査の機会をつくることができなかったため。 今年度は、国会図書館による文献研究と研究報告書の作成に使用する。
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