2021 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study of the Democratic (Political) Constitutionalism after Brexit
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19K01279
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
愛敬 浩二 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10293490)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イギリス憲法 / 1998年人権法 / 政治的憲法論 / EU離脱レファレンダム |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、1998年人権法の改廃について、与党保守党を中心にして政治のレベルで議論が進んだ。とりわけ、独立委員会による報告書「The Independent Human Rights Act Review」が12月に公表されたこともあり、現地の新聞(電子版)も参照しつつ、人権法の行方をめぐる政治状況と政治言説の分析を行った。 学者・実務家のレベルでも、ヨーロッパ人権裁判所の判例を国内裁判所が「権威」として位置付ける人権法システムへの批判の声が高まっている。2021年度は特に、元最高裁判事のJonathan Sumptionの議論と、司法積極主義を批判するシンクタンクJudicial Power Project(以下、「JPP」と略す)の主張を分析した。特に注目したのは、SumptionやJPPの主張は、法的立憲主義に対する(リベラル)左派の従来の主張と同調する面が少なくない点である。実際、JPPは左派系の公法学者の寄稿を集めた報告書も公表しており、法的立憲主義に対する右派・左派の両方からの批判という新しい現象を指摘することができる。 しかし、(リベラル)左派の立場から法的立憲主義を批判するRichard Bellamy等はこのような右派からの司法積極主義批判を共和主義的立憲主義の立場から批判しており、本研究のテーマであるEU離脱後の政治的憲法論の意義と課題という問題を考える上で興味深い論争が進行していることが確認できた。この研究成果の一部を中部憲法判例研究会で報告した(2021年11月)。この研究報告の一部を現在、論文として執筆中であり、2022年秋には公刊予定である。また、基本権の私人間効力に関する論文の中で人権法制定後のイギリスの基本権論の動向を紹介する際、そして、憲法の概説書の比較憲法に関わる記述を改訂する際、本研究の成果の一部を利用することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍の下、海外出張が困難なため、現地の研究者との討議を通じて自分の研究の成果を確認するというプロセスは当初の計画通りには進んでいないが、電子メールでのやり取りや遠隔会議システムを通じて一定の交流は継続している。出版の遅れ等の理由で2021年度の研究成果の公表は不十分な結果となったが、2022年度内に一定の成果を公表できる予定である。 ただし、文献研究レベルでの研究は計画通りに進んでいる。とりわけ、保守系シンクタンクの一翼として左派による法的立憲主義批判を意識しつつ(「抱き込み」をねらいつつ)、司法積極主義を批判するJPPの活動について一定の検討を進めることができたことは、現在のイギリス憲法の理論動向を分析する上で重要な進展であった。実際、イギリスの公法学者との遠隔での会議の際も、JPPに関する質疑をすることにより、イギリスの憲法論議の現況について深い理解を得ることができた。 EU離脱問題後の憲法学説の理論的布置に関する体系的理解が進んだので、2022年度の研究を追加することにより、本研究の課題である「EU離脱レファレンダム以降の政治的憲法論の意義と課題に関する比較憲法的研究」というテーマに関して、一定の研究成果を公表する準備は整いつつあると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
独立委員会の報告書が2021年末に公表されたことから、人権法の改廃に関する国会での議論が加速することを予測していたところ、ロシアによるウクライナ軍事侵攻により、人権法改廃を目論んでいた保守党関係者の間からも「人権と民主主義を守れ」との発言が聞かれるようになり、人権法改廃の見通しは再び不透明になりつつある。しかし、保守党は2015年総選挙の際のマニフェスト以来、人権法改廃を重要な政治的課題としているので、この問題をめぐるイギリス憲法の議論は継続している。 「現在までの進捗状況」でも述べたとおり、現地の研究者との継続的な意見交換という研究方法の面では予定通りの進行をしていないが、研究課題との関係での文献研究は順調に進んでいる。2022年は最終年度のため、早い時期に文献研究に基づく一定の研究成果を完成させ、条件の許す範囲でイギリス出張を実施して現地の憲法学者と濃密な意見交換を行うことにより、本研究の全体的な成果を公表できる体制を整えたい。研究成果の公表は可能であれば2022年度内に、それが困難な場合は2023年度内に行うことを計画している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、コロナ禍の影響により海外調査をする機会がなかったことにある。また、同様の理由で、研究会の開催や資料収集・作成に関わる人件費等の支出も必要がなかった。ただし、2021年度は海外出張が困難であることを見越して、文献資料の調査・収集に力を入れたので、かなりの量の関係文献を手に入れることができた。コロナ禍の環境はかえって、個人研究の時間を確保することを可能にしたので、文献研究は予定通りに進行することができた。 2022年度の使用計画としては、年度末までに海外調査が可能になることを期待しつつ、そのための渡航費用として使用するほか、現在の条件下ではなお、文献調査が中心になるため、研究課題に関わる文献収集を計画的に行う予定である。
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Research Products
(2 results)