2020 Fiscal Year Research-status Report
シャウプ勧告は日本の租税・行政手続をどう変えたのか?
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19K01281
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
渕 圭吾 神戸大学, 法学研究科, 教授 (90302645)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 行政手続 / 手続保障 / デュー・プロセス / 租税手続 / 固定資産税 / 人税 / 物税 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目にあたる2020年度においては,COVID-19の世界的な流行に伴い,当初予定していたアメリカ合衆国における資料調査等が全くできなかった。そこで,本年度においては,日本の租税を主たる対象として,租税実体法と租税手続法がどのように関係しているか,ということを考察した。 具体的に言うと,租税の種類が所得税・消費税・資産税というように異なることに伴い,租税の賦課・徴収の各段階において要求される納税者(あるいは,租税負担者)に対して要求される手続保障の内容や水準が異なるのではないか,という仮説を得た。 例えば,所得税においては,納税者である個人の一年間の(あるいはそれ以前も含む)経済活動の全貌が評価されなくてはならないから,必然的に,納税義務の確定にあたって必要な情報の量が多くなり,また,この情報の評価に主観性が伴う。そうすると,必要な情報が判断者である納税者及び課税庁にオープンになる必要があり,また,どのような情報をもとにどのような判断をするのか,ということについて,納税者と課税庁の双方がその見解を述べる機会が必要となる。これに対して,源泉徴収所得税や消費税になると,必要な情報は支払いの金額及び支払いの性質決定(例えば,商品の販売の対価なのか,利子なのか,配当なのか,著作権の使用料なのか)に尽きるから,関係者に与えるべき争訟の機会は(上記の所得税と比べると)限定されてもよいかもしれない。固定資産税においても,原則としては,特定の固定資産の客観的な評価こそが問題であり,争訟の枠組みは(上記の所得税とは)異なって然るべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の報告書に書いた通り,2019年度においては,英語論文の公刊に漕ぎ着け,比較的順調に研究が進んでいた。その後,COVID-19の世界的大流行に伴い,海外・国内の出張は全て不可能となった。しかし,租税の性質の違いに伴って,要求される行政手続・権利保護の質及び量が異なるのではないか,という重要な知見を得ることができた。またこれに伴い,日本語ではあるが,数本の論文を公刊することができた。以上のことから,2020年度においても,おおむね順調に進展している,と評価しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,2019年度に公刊した英語論文の日本語版(翻訳)を国内で公表したい。また,租税の種類により手続保護の水準等が異なるという知見を国際的な側面についての分析に応用していきたい。 他方,万が一,ワクチン等の普及により出張が可能になる場合には,改めて,アメリカの学者がシャウプ勧告に至る前にどのようなことを考えていたのか,ということを調査したい。
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Causes of Carryover |
海外出張等ができなかったため,次年度使用額が生じた。他方,租税手続法に関係する近年刊行された書物は,神戸大学にも,国内にもあまり揃っていないことが判明した。そこで,次年度使用額については,これらの書籍を購入するために大切に利用したい。
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