2020 Fiscal Year Research-status Report
The Modern Significance of the Monarchical Principle
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19K01288
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
長谷部 恭男 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80126143)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 君主制原理 / 国家法人理論 / 憲法制定権力 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、前年度までの君主制原理に関わる研究成果を書籍の形にまとめる作業を主として行った。 第一に、君主制原理に関連して英文で公表してきた文献(‘Constitutional Borrowing: The Case of the Monarchical Principle' in I. Motoc et al. (eds), New Developments in Constitutional Law: Essays in Honour of Andras Sajo (Eleven International Publishing 2018); ‘Constitutional Change in Japan’in Xenophon Contiades and Alkmene Fotiadou (eds), The Routledge Handbook of Comparative Constitutional Change (Routledge 2020).等)を他の英文文献とともに、内容を相互に調整し、アップデイトした上で、書籍の形にまとめる作業を行った。2021年度中に、Towards a Normal Constitutional State: In View of the Trajectory of Japanese Constitutionalism というタイトルで、Waseda University Pressから刊行される予定である。 第二に、君主制原理に関わる邦語文献(「緊急事態序説──カール・シュミットを手掛かりとして」憲法理論研究会編『展開する立憲主義』等)を関連する他の邦語文献とともに、内容を相互に調整し、アップデイトした上で書籍の形でまとめる作業を行った。作業の結果は、2021年4月に、『憲法の階梯』というタイトルで有斐閣から刊行されている。 また、一般市民向けの書籍ではあるが、日本における君主制原理(天皇主権原理)から国民主権原理への転換を基軸の一つとして、戦争と憲法原理との密接な関連性を説明する書籍として、『戦争と法』を2020年7月に文藝春秋から刊行した。 このほか、関連する論稿として、「憲法のアイデンティティと機能」を論究ジュリスト誌上で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、前年度までの君主制原理に関わる研究成果をまとめる作業に専念することができた。 (1)君主制原理が大日本帝国憲法下でドイツから輸入された国家原理であること、(2)それが天皇主権原理と呼ばれ、旧憲法第4条に明確な形で規定されたこと、(3)美濃部達吉を中心とする旧憲法下での公法学の通説が提唱した国家法人理論が、君主制原理と同様、近代ドイツ公法学に由来するものであったにもかかわらず、君主制原理と相容れない国家観を前提としていたこと、(3)こうした国家観の深刻な対立のために天皇機関説事件が生起したこと、さらに、(4)現在の日本国憲法下の公法学説にも、行政権概念に関する控除説や、実質的法律概念に関する法規説、帰属の不明な権限は国会に帰属することが推定されるとする説等、君主制原理に由来する法原理が、それと気付かれることもなく、少なからず残存していること等の研究成果を邦語および英語で書籍の形でまとめる作業を順調に行うことができた。 以上のような研究成果は、憲法学の広範にわたる学説や法原理相互の内在的連関を明らかにするだけではなく、現代民主主義体制におけるそれらの学説や法原理の意義を改めて問い直す契機をも与えることになる。 また、君主制原理は旧憲法下における国家体制の基盤となる原理であったことから、その国民主権原理への転換が、日本における憲法のアイデンティティ(constitutional identity)の転換をももたらすものであった可能性を明らかにすることにもなる。 さらに、国民主権原理に立脚する現憲法下における天皇制が、今後いかなる形で運用され、その維持が図られるべきかについても、一定の示唆を与えることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、旧憲法下における君主制原理が、現憲法下における国民主権原理に転換したことが、日本の憲法のアイデンティティにもたらした変化を英文の形でまとめ、2021年6月に開催される国際憲法学会(International Association of Constitutional Law)のラウンド・テーブルで報告することを予定している(現在のところ、リモート形式で開催される予定)。また、同様の内容の報告を、2021年12月に台北で開催される予定の第9回アジア憲法フォーラムでも行うことを予定している。いずれの場も、各国の比較憲法研究者と有益な形で意見や情報を交換する機会となることが予想される。 第二に、君主制原理の現代的意義を探る上で格好の研究素材を提供するイギリスの憲法体制に関連して、国王の同意(Queen's Consent)という、日本ではこれまでほとんど研究されることのなかった制度について、邦語で論文をまとめることを予定しており、現在執筆を進めている。これは、イギリス国王の大権(prerogatives)または国王の財産管理等の私的な利害に関わる法案を議会に提出する際は、予め国王の同意を得るべきだとの制度であって、下院の解散を原則として禁止する2010年立法期固定法が制定される際にも同意が与えられているし、国王の私的利害に関わるものとしては、労働法制、道路交通法制、会社法制等きわめて広範にわたる分野での法案の提出に関して、国王の同意が求められてきたことが知られている。伝統的要素を色濃く残すイギリスの国王を巡る法制度の従来の運用や、それが今後どのような改革を求められることになるかを考察することは、日本の現憲法下における天皇制のあり方を考える上でも大いに参考となることが期待される。 また、関連する英文論稿をまとめて書籍化する作業は、2021年度も継続して行う。
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[Book] 戦争と法2020
Author(s)
長谷部 恭男
Total Pages
224
Publisher
文藝春秋
ISBN
9784163912387