2021 Fiscal Year Research-status Report
The Modern Significance of the Monarchical Principle
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19K01288
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
長谷部 恭男 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80126143)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 君主制原理 / 国家法人理論 / 天皇主権原理 / 国民主権原理 / 緊急事態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『憲法の階梯』(有斐閣)とTowards a Normal Constitutional State(Waseda University Press)の2つの著書を刊行した。 このうち、『憲法の階梯』には、中世ヨーロッパの政治体制論の発展をたどった「主権は国民に存する」と、君主制原理を確立したフランス1814年憲章が、ワイマール憲法をはじめとするその後の憲法体制における国家緊急権論のモデルとなった経緯を描く「緊急事態序説──カール・シュミットを手掛かりとして」が収められている。 また、Towards a Normal Constitutional Stateは、フランスで確立した君主制原理がその後ドイツ諸邦に導入され、さらに大日本帝国憲法を通じて日本に移入された経緯を描くConstitutional Borrowing: The Case of the Monarchical Principle、カントの法理論を淵源とする国家法人理論の生成の経緯と、それが日本における君主制原理の現象形態である天皇主権主義と相剋するにいたった事情を描くKant's Rechtstaat and Its Reception in Japan、および君主制原理を含む日本の憲法原理の変遷と相互の衝突を描くWhat is the Constitutional Identity of Japan?を収める。 さらに、執筆を終えて刊行を控えている原稿として、イギリス国王の国王大権のうち、立法拒否権(Royal veto)と、国王大権および王室に関する法案への国王の同意を要求する同意制度(Royal consent)につき、それぞれの発展の経緯と現状を描く「イギリス国王の立法の裁可と同意」がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたように、フランスにおける君主制原理の生成と、ドイツにおけるその受容と展開、さらに大日本帝国憲法を通じた君主制原理の受容とその展開の過程を描く業績を日本語および英語で執筆し、論文あるいは著書の形で公表することができた。 また、これらの研究の結果を反映した報告を国際憲法学会(International Association of Constitutional Law)のラウンド・テーブル(サンクトペテルブルク)で行い、海外の研究者と議論を交わすことができた。 さらにこうした研究の成果にもとづいて、海外の研究者による大日本帝国憲法下の天皇制および日本国憲法下の天皇制に関する研究を対象とする書評を2本、現在作成中である。一つは、Lind Colley, The Gun, The Ship and The Pen: Constitutions, and the Making of the Modern World (Profile Books 2021)に関するもので、International Journal of Constitutional Lawに2022年度中に掲載される予定である。いま一つは、Kenneth Ruoff, Japan's Imperial House in the Postwar Era 1945-2019 (Harvard University Press 2020)に関するもので、Asian Journal of Law and Societyに掲載されることが予定されている。これらの書評もまた、海外の研究者との交流のきっかけとなることが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、「現在までの進捗状況」で触れた2本の書評論文を完成させることを考えている。Linda Colley の著作に関する書評論文は、すでにPeer Reviewに回してある。Kenneth Ruoff の著作に関する書評の執筆には、これからとりかかる。 第二に、本研究と密接に関連する研究として、ボシュエの絶対王政論、ジョージ3世当時のイギリス政治における王権行使の役割、カントおよびヘーゲルの法理論の対抗関係に関する原稿を執筆済みなので(いずれも、けいそうビブリオフィル上の「憲法学の散歩道」と題するコラムで公表済み)、これらを他の関連する原稿と合わせて出版することを考えている。いずれも、憲法思想の淵源を探ることを通じて、現在の憲法制度に対する見方を改める試みである。 第三に、君主制原理は、国会に関する「権限の推定」、天皇の国事行為に関する内閣の助言と承認の「大臣助言制」に即した理解など、現在の日本の憲法解釈にもさまざまな影響を残しているので、それらの影響を跡づける研究をいくつかの憲法条文の解釈論としてまとめ、公表することを考えている。これらは、『注釈日本国憲法(4)』(有斐閣)として刊行される予定である。 第四に、「研究業績の概要」で触れたイギリス国王の立法同意権限のように、かつての君主大権の痕跡が各国の憲法に残ってはいないか、比較憲法研究を実施することを予定している。 第五に、イギリスでごく最近廃止された国会任期固定法に関して議論された、国王大権を廃止する法律を廃止した際にいかなる法状態が出現するかという理論的問題についても、分析を進めていきたい。同様の、理論的になお分析が必要な問題としては、主権者の主権を主権者自身が制限することが可能かという、いわゆる主権の自己制限の問題もある。
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Research Products
(3 results)