2019 Fiscal Year Research-status Report
政治部門の憲法解釈による事実上の憲法改正とその限界に関する研究
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19K01289
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
手塚 崇聡 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (30582621)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大林 啓吾 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (70453694)
白水 隆 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (70635036)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 公法学 / 憲法学 / カナダ憲法 / アメリカ憲法 / 生ける樹理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2019年度は、時代に応じた「政治部門による事実上の憲法改正の意義」について検討を行い、特にカナダにおける実践に焦点を当てた。まず4月に、カナダの憲法研究者のグラント・ハスクロフトの「生ける樹」理論に関わる講演をシカゴで聴講し、また同氏にインタビューを行うことで、時代の変化に対応した進歩的な憲法解釈を示唆する同理論の知見を深めた。このカンファレンスでは、日本の憲法的発展について比較法的観点から報告し、グラントやその他の参加者と議論して、内容を深めた。その折に研究者間で会合を開き、問題意識や情報の共有、更には新たな論点の設定を行った。また8月にはカルガリー大学の憲法研究者にインタビューを行い、その折に研究者間で会合を開き、情報を共有した。さらに2月に3回目の会合を開き、今年度の研究成果の公表等を行い、具体的な進捗状況の確認を行った。これらを踏まえて、これまでカナダでは、1982年に大きな憲法改正がなされたが、その後は軽微な改正があったものの、憲法構造の根本に関わるような改正は行われていないことを確認した。そしてカナダでは、1982年以降、政治部門における明確な「事実上の憲法改正」はなされていない状況にあるが、1982年憲法制定当初から憲法改正の提案がなされてきたこと、進歩的な憲法解釈を通じた時代の変化や国際社会の動向への対応は、むしろ司法権が積極的に担ってきた状況にあることが明らかになった。もっともこうした状況の背後には、財産権をはじめとした権利の創設の断念や、1982年憲法に規定されている適用除外条項を援用しているケベック州の存在があり、さらに研究者からはカナダの憲法改正が困難な状況についての指摘がなされていることを確認した。以上のように、本年度はカナダにおける「事実上の憲法改正」の状況とその要因についての検討がなされ、次年度以降の研究につなげる基盤を形成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で示したように、本年度は海外で2回、国内で1回の会合を開き、合計して3回の会合の中で、研究者間での問題意識や情報の共有を行った。初年度の研究計画においては、政治部門による事実上の憲法改正の意義について、英米諸国における実践を踏まえながら、各国の特徴と意義および問題点を明らかにすることに主眼を置くことを予定していたが、カナダにおいては「事実上の憲法改正」が明確になされている状況とはいえない。 しかし、このことは、本研究の進捗の遅れを示すものではない。なぜなら、「政治部門による事実上の憲法改正の意義」を明らかにするためには、そうした「事実上の憲法改正」がなされているか否かだけではなく、政治部門が「事実上の憲法改正」に至らない特徴や状況を明らかにすることで、次年度以降の研究対象ともなっている「事実上の憲法改正」の限界点を明らかにすることができるためである。カナダが1982年に憲法改正を経たのちに、政治部門による「事実上の憲法改正」ではなく、司法権によって時代の変化や国際社会に対応する憲法解釈がなされたことや、憲法改正動向等の状況が明らかになったことは、本年度の研究の成果である。 以上のことから、本研究は現在おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、時代に応じた政治部門による事実上の憲法改正について、その限界点、つまり、「事実上の憲法改正の限界」について検討を行う予定である。特にその過程では、A.従来の「憲法変遷論」との違い、B.政治部門による事実上の憲法改正の「司法的統制の可能性」に焦点を当てて検討を行う。特に、憲法変遷論自体には様々な議論がなされているが、その要件や限界などについては明らかにされていないことから、政治部門による憲法解釈の「限界」という視点からの検討を行う必要がある。そこで、そうした観点から引き出された、「司法的統制」という側面からの「限界」を示す予定である。もっとも、新型コロナウイルスの影響を鑑みて、研究方法の大幅な修正も行う必要があると考えている。具体的には、当初予定していた国内での研究会を開催できない可能性があり、また海外については、現地での文献調査や研究者等に対するインタビューを行えない可能性や、国際学会への参加等についても断念せざるを得ない可能性が考えられる。そのため、状況の変化に対応することにはなるが、当初予定していた学会、研究会、インタビューについては、オンラインで行うことも検討している。また学会等は次年度に繰り越しになっているところが多いことから、翌年に回す可能性があることも視野に入れている。
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Causes of Carryover |
白水に配分された研究費については、令和2年3月、新型コロナウイルスの影響により、所属する機関で不要不急の(用務での出張、イベントの開催等)を自粛する方針となったため、予定していた国内出張が実施出来ないことが判明した。そのため、調整の結果、次年度に延期する必要が生じた。本年度使用できなかった研究費については、次年度の国内出張に充てる予定であるが、新型コロナウイルスの影響を鑑みながら、より慎重に計画を立てながら、適切な執行に努める。
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Research Products
(4 results)