2020 Fiscal Year Research-status Report
政治部門の憲法解釈による事実上の憲法改正とその限界に関する研究
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19K01289
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
手塚 崇聡 中京大学, 教養教育研究院, 准教授 (30582621)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大林 啓吾 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (70453694)
白水 隆 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (70635036)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 公法学 / 憲法学 / カナダ憲法 / アメリカ憲法 / 生ける樹理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目である2020年度は、前年度の研究成果(英米諸国、特にカナダにおいては、政治部門の「事実上の憲法改正」ではなく、司法権によって時代の変化や国際社会に対応する憲法解釈がなされてきたこと)と、英米諸国における憲法改正動向等の近年の状況を踏まえ、政治部門が「事実上の憲法改正」を行わない状況にあることと司法権との関係に関する検討を行った。当初は年に2回の対面での研究者間での情報共有を行う計画であったが、新型コロナウイルスの影響のため、1回は断念し、残りの1回については3月にオンラインでの会合を開き、今年度の研究成果の公表等を行い、具体的な進捗状況の確認を行った。また、海外での文献調査や研究者等に対するインタビューについても、その渡航自体を断念せざるを得なかったが、各研究者はそれぞれオンラインで国内外の研究会及び学会での報告などを行った。 具体的には、カナダでは2019年の法務省法の改正によって、法務大臣に対して、すべての法律に対して憲章上の権利と自由に関する潜在的な影響があるかを評価する声明を提出することが義務付けられたが、これには司法権が関わっている可能性があることを確認した。つまり、法務大臣等の審査が憲章等の審査を適切に履行していないと主張された2012年シュミット事件では、連邦裁判所、控訴裁判所ともに訴えを棄却した(最高裁では却下)ものの、法務省法改正の際に同事件が背景となっていることから、司法権における判断が少なからず影響している可能性があること、また憲章声明には「事実上の憲法改正」には至っていないことの政治部門による国民へのメッセージとしての意義がありうることを確認した。以上のように、本年度はカナダにおける「事実上の憲法改正」に至らない要因としての司法権の意義・役割についての検討を行い、最終年度の日本との比較検討のための基盤を形成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で示したように、本年度は国内(オンライン)で1回の会合を開き、研究者間での問題意識や情報の共有を行った。2020年度の研究計画においては、英米諸国、特にカナダの政治部門が「事実上の憲法改正」を行わない特徴や状況を踏まえつつ、その司法的統制との関係についての検討を行い、その過程では、A.従来の「憲法変遷論」との違い、B.政治部門による事実上の憲法改正の「司法的統制の可能性」を明らかにすることを計画していた。もっとも、新型コロナウイルスの影響から、海外での文献調査や研究者等へのインタビューなどが行えなかったといった事情もあり、「事実上の憲法改正」の「司法的統制の可能性」が明確になった状況にはない。 しかし、研究実績でも示したように、特にカナダの政治部門が「事実上の憲法改正」を行わない特徴や状況とその司法権との関連性について、一定の示唆を得ることができていることから、やや間接的ではあるが、「司法的統制の可能性」を明らかにする糸口を見出すことができている。このことが本年度の研究の成果である。 以上のことから、本研究はやや遅れていると評価できるものの、最終年度の研究計画の修正によって対応できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2021年度は、これまでの研究成果を踏まえて、英米諸国における時代に対応する事実上の憲法改正動向を整理し、日本の状況を踏まえつつ、具体的な示唆の提供を行う予定であり、日本における近時の議論への示唆を提供したいと考えている。もっとも、本年度の進捗状況や新型コロナウイルスの影響を鑑みて、研究方法のさらなる修正も行う必要があると考えている。 具体的には、本年度十分には明らかにならなかった「事実上の憲法改正」に対する「司法的統制の可能性」の検討を次年度の前半に引き続き行い、その研究成果を踏まえて、後半に日本への示唆を検討する予定である。そこで、次年度においても研究者間での情報共有等のため研究会を開催するが、いずれもオンラインで行うことを予定している。また海外については、引き続き、現地での文献調査や研究者等に対するインタビューを行えない可能性があり、また国際学会への参加等についても断念せざるを得ない可能性があるため、いずれもオンラインで行うことも検討している。さらに当初予定していたシンポジウムについては、オンラインで行う可能性も含めて検討する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、所属機関において不要不急の出張、イベントの開催等を自粛する方針となったため、昨年度計画した国内出張について、実施が困難である状況となり、調整の結果、次年度に延期する必要が生じた。本年度使用できなかった研究費については、次年度の国内出張に充てる予定であるが、新型コロナウイルスの影響を鑑みながら、より慎重に計画を立て、適切な執行に努めたい。
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Research Products
(8 results)