2020 Fiscal Year Research-status Report
Professional Speech Doctrine and The Freedom of Speech
Project/Area Number |
19K01299
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
井上 嘉仁 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 准教授 (70390515)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 学問の自由 / 民主的正統性 / 民主的能力 / 表現の自由 / オーストリア学派 / 専門職言論 |
Outline of Annual Research Achievements |
専門職言論は,顧客の状況に合わせて個別化され,権威をあたえてくれる学問的知識体系と結合され,話し手と聞き手の間の知識の非対称性,話し手の助言に対する聞き手の依存,そして当該助言の正確性に対する信頼により,他と区別されるような言論であり,社会的関係のなかで生起する。ここに個人の主観的権利に還元できない,学問的体系により統合された知識コミュニティを想定し,コミュニティへの敬譲という客観法原則を導出することができるのではないか。 かかる問題意識から,本研究は,まずアメリカ合衆国憲法の解釈論で展開されている民主的正統性・民主的能力の価値理論を分析し批判的研究の対象とした。当該理論は,学問の自由を表現の自由を保障する修正1条の文脈で捉えようとするものである。わが国においては,学問の自由は表現の自由とは別の条文で保障されているため,表現の自由の文脈で学問の自由を捉える必然性に乏しいといえる。 この観点からは,表現および学問の「自由」を保障している意義を重視するべきである。本研究では,オーストリア学派の自由論を参照し,市場プロセス,競争,企業家精神等のタームに依拠し,従来とは異なる視座から学問の自由に光を照射した。 民主的正統性・民主的能力の価値理論は,知識の正確性と民主的能力の価値を結合させて,知識コミュニティへの敬譲を正当化しようとした。これに対して,オーストリア学派の自由論は,無知であるがゆえに自由保障が必要であると説く。無知が最大となる研究の最先端こそ,自由の保障が重要だと考えられるのである。 学問の自由の限界は,専門職言論の限界と重なる。専門職言論の文脈においても,自由保障の普遍的原理である加害原理や感情侵害原理が原則とされなければならない。 以上のように,本研究は,学問の自由と表現の自由の交差する専門職言論の憲法上の理論的位置づけを中心に検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
専門職言論は表現の自由の文脈でその保障の水準が研究されてきている。 しかし,専門職はその知識の学問的裏付けを有するものであり,表現の自由によってのみその自由が保障されるとは考えられない。学問の自由によっても,専門職の自由は保障されていると考えられるべきである。 こうした観点から,表現の自由と学問の自由の関連性,学問の自由の保障の意義,アメリカにおける民主的正統性・民主的能力の価値理論と,その理論のわが国における限界等を検討することができた。 表現の自由,知識コミュニティ,学問の自由の関連性を研究できており,概ね順調に研究が進展しているといえる。 当初予期していないことが生じた場合でも,研究会等での報告をするなどして,適切な助言や示唆が得られるように努める。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は,日本における専門職の言論状況を把握・整理し,問題点を顕わにすることを中心的課題に位置づける。 そのさい,アメリカにおける専門職言論理論,知識コミュニティ理論を応用し,また民主的正統性・民主的能力の価値理論に示唆を得ながらその限界を示し,オーストリア学派の自由論から導かれた学問の自由の保障の意義と限界に関するこれまでの本研究課題の成果を土台とする。 知識コミュニティ理論による,立法裁量・行政裁量の統制については,これまで十分な研究ができていないため,この点についての理論的分析もおこなう。
|
Causes of Carryover |
学会出席や資料収集目的での旅費の執行がなかったこと,資料収集が満足におこなえず,必要な消耗品の購入も少なかったことが理由である。 次年度は,資料収集を精力的におこない,不足してきている消耗品を購入する必要があることから,順次計画的に購入していく予定である。
|