2021 Fiscal Year Research-status Report
リスク統御モデルの議会法理論――秩序形成のネットワーク化と動態的知識形成
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19K01301
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
赤坂 幸一 九州大学, 法学研究院, 教授 (90362011)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 議会 / 憲法 / 議場 / 憲法秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、議会を中心とするリスク統御の理論を、憲法・憲法学の展開の中に位置付けると共に、パンデミックの拡大の中で議会が如何なる役割を果たすべきかを、議場構造や議会制度史の面から考察し、あわせて、その知見の社会還元を図った。その中で特に重要なものを挙げれば、次の通りである。 (1)『憲法秩序の新構想』(三省堂、2021年、曽我部真裕・櫻井智章・井上武史との共編)。憲法秩序の変動のあり方を考察する本書を世に問うと同時に、その中に収録した「議場構造の憲法学・補遺」268-288頁では、オラトリークの視座から、議場構造が議会審議・手続に与える影響を考察し、その憲法学史的な含意を明らかにした。 (2)共著『戦後憲法学の群像』(弘文堂、2021年)では、「京都学派の系譜――理論と実践の交錯」166-195頁を収録し、このような知見が憲法学会の中でいかにして形成されてきたのか、その理論史的背景を明らかにした。 (3)論究ジュリストに連載中の「日本国憲法のアイデンティティ」では、憲法の危機と日本社会、またグローバル行政法と憲法アイデンティティの相剋といったテーマの中で、統治機構や憲法秩序のあり方を原理的に考察する試みに参画した。 (4)参議院改革協議会や参議院憲法審査会において、文書通信交通滞在費やパンデミック下のオンライン国会の在り方について有識者として見解を述べ、憲法秩序のあり方に対して専門的知見の社会還元を図った。文通費は「議員活動」に限定される旨の改革がなされ、私見と同じ方向で問題解決が図られたが、使途の公開や公正な国家資源の配分などは、今なお問題を残している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初には想定されていなかったパンデミックの拡大のため、海外での実地調査のみ未実施であるが、幸い、オンライン化の進展の中で、ある程度までの文献収集や意見交換は、オンライン・ツールの利用によって不十分ながらも実践することができるようになった。今後もこのような方向性が続くと思われるが、最終的には実地の議会制度調査や実務関係者への聞き取り調査、現地施設調査が必要になるため、研究最終年度においてはこれらの実現を図ると共に、最終的な研究成果の取りまとめを行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに公表した論考を2冊の単行本として刊行する予定で準備中である。 一つは、統治機構論に関わる研究動向を深掘りする書籍で、リスク統御の問題を中核としつつ、議員特典や議会留保、憲法留保、最高裁の判例形成過程、議事堂建築の憲法学、デジタル時代の代表制理論など、各種の知見が織り込まれる予定である。 もう一つは、議場と議会制度の関係に焦点を当てたもので、諸外国で進展しつつあるオラトリークという視座からの議会文化史研究の蓄積を汲み取りつつ、我が国の議会・議会制度・議場構造がどのような意味連関のもとに置かれているのかを、歴史的・比較法文化史的な視座から解明しようとするものである。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症の拡大による出入国制限や待機期間の設定が長く続いたため、実地での施設調査や実務関係者への聞き取り調査などは次年度に見送らざるを得なかった。もっとも、日独双方におけるオンライン環境の拡充により、一部の文献収集や意見交換についてはオンラインツールを利用することで実施可能なものが増え、当初の研究計画よりも充実した文献収集が可能になった面もあり、次年度使用額の支出に際しても、こういったオンラインツールの活用を前提として、さらに効果的な研究費の使用を検討したい。
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Research Products
(7 results)