2019 Fiscal Year Research-status Report
公務の民主的正統性に対する調整の観点からの職務命令に対する意見具申に関する検討
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19K01302
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
渡邊 賢 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (50201231)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 憲法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の一個の検討課題は、職員の意見具申の仕組みが憲法21条の保障する表現の自由に位置づけることができるか、という点にあり、合衆国では、上司に対する職員による意見具申が表現の自由に基礎づけることができるか否かが争われた事案につき判断を下した2006年の合衆国連邦最高裁の存在とこの判例をめぐる議論が集積されている。しかし、この判例をめぐる議論を分析する前に、わが国の場合には、合衆国には存在しない憲法28条があることから、憲法28条の存在理由をまずは確認し、その存在が憲法21条に係る議論にどのような影響を与えるか、あるいは与えないかを見定める必要がある。そこで本年度においては、次の2つの研究を行った。 第1に、憲法28条がないとすると、憲法21条に基づく議論によりいかなる議論が展開されることとなるかを、合衆国の判例法理を手がかりとして分析することを試みた。この点については、この問題を検討する好個の素材である、いわゆるエージェンシーショップ制の合憲性を否定したJanus v. American Federation of State, County, and Municipal Employees, Council 31, et al. (Janus v. State, County, and Municipal Employees), 585 U.S. (2018)の分析を進めた。 第2に、公務員の労働基本権保障を含む諸問題を権力分立問題の中で捉え直す、という試みの一環として、申請者自身のこれまでの研究の流れをまとめる形で私的な研究会(若手の憲法学者、労働法・公務員法学者、民法学者及び申請者自身から構成)で報告を行い、公務員の意見具申のあり方もまた権力分立機構の中に位置づけることの理論的可能性と、その法的効果について、試論を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献の収集及び読解並びに研究会における発表等は想定通りに進んでおり、研究自体はおおむね順調に進展している。しかしながら、研究成果の公表が遅れている。これは、2019年度に思いもかけず大阪市立大学法学部長及び法学研究科長を拝命し、大阪市大と大阪府大を統合した新大学の設置認可に向けた事務書類の作成に忙殺されたためである。 2020年度においてはこの役職から解放されることから、新型コロナ感染の影響があるとしても、今年度は研究成果の公表を進めることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の一個の検討課題は、職員の意見具申の仕組みが憲法21条の保障する表現の自由に位置づけることができるか、という点にあり、合衆国では、上司に対する職員による意見具申が表現の自由に基礎づけることができるか否かが争われた事案につき判断を下した2006年の合衆国連邦最高裁の存在とこの判例をめぐる議論が集積されている。今後は、第1に、この判例をめぐる議論に関する分析を進める。 第2に、Janus v. American Federation of State, County, and Municipal Employees, Council 31, et al. , 585 U.S. (2018)の検討をさらに進めることである。事案は、公務員組合との間でいわゆるエージェンシー・ショップ制を認めるイリノイ州法の合憲性が問題となり、連邦最高裁の多数意見は、表現の自由を保障する合衆国憲法第1修正の規範内容の一つである消極的表現の自由(消極的結社の自由)を違憲に侵害するものと判断した。当該事案で争われた制度を専ら結社の自由という自由権の論理のみで問題を処理するとどのような帰結が導き出されるかに留意しつつ、この判例を合衆国憲法論に内在的な形で分析することが、今年度の第2の解題である。また、この問題が発生する前提として、合衆国では排他的交渉代表制という独特の制度が存在しており、排他的交渉代表制度をわが国で採用した場合に憲法28条との関係で発生する抵触が正当化できるか、という論点にも留意しつつ、分析を進める。以上の第1・第2の方策との関係では、今年度は合衆国において資料収集し、同時に専門家の意見を伺う。 第3に、公務員の労働基本権保障を含む人権問題を権力分立問題の中で捉え直す、という試みの一環として、公務員の意見具申のあり方をめぐる制度等に関する考察を進める。
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