2019 Fiscal Year Research-status Report
単純無申告逋脱罪の実務的運用を踏まえた逋脱罪一般の構成要件に関する研究
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19K01304
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Research Institution | Kanazawa Seiryo University |
Principal Investigator |
中尾 真和 金沢星稜大学, 経済学部, 准教授 (10781685)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 単純無申告逋脱罪 / 単純無申告罪との相違 / 実務上の運用の問題点 / 租税回避との関係性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題を構成する幾つかの論点のうち、単純無申告罪と単純無申告逋脱罪との間における構成要件の実質的一致に関する問題点、及び、単純無申告逋脱罪の導入による租税回避行為の取扱いがもたらす影響について、重点的に研究を行った。 前者について、単純無申告罪及び単純無申告逋脱罪の各構成要件に関し、特に「税を免れたこと」という構成要件を中心に比較分析を行ったところ、所得税等の申告義務と納税義務、ないし、法定申告期限と法定納期限が一致する多くの租税については、実質的に両者の構成要件が一致するとの解釈に辿り着いた。しかしながら、同時に、実際に単純無申告逋脱罪が適用された事案においては、被告人に対し、単純無申告罪よりも相当程度重い刑罰が科されているとの調査結果が認められ、今後の研究にも繋がる問題点が浮かび上がってきた。 後者については、裁判例等を調査、分析した結果、これまで、租税回避の試みに対して否認規定が適用されず、租税が課されなかった場合については、逋脱罪の適用もなされてこなかったが、租税回避の試みに否認規定が適用され、租税が課されることとなった場合については、一定の場合(個別否認規定と呼ばれる種類の否認規定が適用された場合)、逋脱罪が適用されていることが判明した。これを踏まえて検討すると、租税回避の試みに対して否認規定が適用されなかった場合においては、免れるべき租税債権が存在しないことなどから、単純無申告逋脱罪についても適用されるべきではないと考えられるものの、否認規定が適用された場合については、単純無申告逋脱罪を適用することは可能であると考えられ、したがって、解釈上では、不正行為を伴わずに税を免れた場合をも処罰対象とする単純無申告逋脱罪の導入により、否認規定が適用され得るような租税回避の試みに対し、より強固な対策が執られる余地が存在することが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度については、単純無申告罪と単純無申告逋脱罪との間における構成要件の実質的一致に関する問題点を主として研究を進める予定であったが、諸般の事情により、関連する単純無申告逋脱罪の導入による租税回避行為の取扱いにもたらす影響についても並行して研究を進めることとした。この点、特に後者については、文献調査等を踏まえ、考察結果を論文に落とし込むに至ったため、一時的に、当初の計画以上の進展が認めらる状況となった。 しかしながら、社会情勢の緊迫により、令和2年2月~3月における、一部の調査(各地方の検察庁に赴いての刑事確定記録の閲覧等)が困難となり、総合的に見ると、おおむね当初予定していた程度の進捗状況に収まった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の社会情勢に応じて、然るべき時期に刑事確定記録の閲覧等の調査を再開する予定である。併せて、当初の予定どおり、海外(アメリカ)の租税制度について、助成額を利用して得られた資料(有料民間データベース等)を利用しつつ、整理、分析を行った上、調査結果、考察結果を論文の形にまとめていく予定である。
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Causes of Carryover |
社会情勢の緊迫に伴い、一部予定していた調査(各地方の検察庁に赴いての刑事確定記録の閲覧等)につき、所属先研究機関の方針で実施できなかったことに伴い、旅費等の使用額が減少した。この点、申請時に予定していたが、実際の助成額に応じて調整が必要となっていた民間データベースの契約につき、この度生じた次年度使用額を利用する予定である。
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