2019 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおける移民第二世代の学力及び学業成功と就業率の相関に関する研究
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19K01309
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Research Institution | Nakamura Gakuen University Junior College |
Principal Investigator |
橋本 一雄 中村学園大学短期大学部, 幼児保育学科, 准教授 (30455084)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 移民 / ライシテ / 平等 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度はパリ第7大学における在外研究の機会を活用し、主にパリ市内の書店及びフランス国内のインターネット書店から関連文献の購入・収集を行うとともに、フランス国立図書館においても資料を収集・閲覧し、概ね目的としていた戦後フランスの移民政策に関する文献・資料の収集を終えた。文献研究等の結果、(1)第二次世界大戦後の高度経済成長期から1980年代までの移民政策、(2)1980年代における移民政策の転換、及び(3)1990年代以降の移民政策という3つの時代区分を立て、それぞれの移民政策の傾向を主に公教育政策の観点から析出した。本研究に関連して重要なのは後二者((2)と(3))であり、ZEP政策が導入された1980年代以降のフランスの移民政策における新たな「平等」の概念が、結果として、今日のフランス社会におけるイスラム系移民の「分離」へとつながった旨の本研究の仮説を立てることができた。 さらに、文献研究の過程で、公立学校における女子生徒のスカーフ着用問題が争われた1990年代のコンセイユ・デタの判決に関する研究を付随的に行い、判例の枠組みを分析した。1990年代のコンセイユ・デタの判決はライシテを宗教的多様性を認める原則として解釈している傾向を判例分析から確認することができた(この点は先行研究として小泉洋一氏の研究がある)。したがって、2004年のいわゆるスカーフ禁止法の論理は、それまでのコンセイユ・デタの判決の法理を受け継いだものではないとの結論を得ている。 加えて、フランスにおいてイスラム系移民との多文化共生及び社会統合政策を研究している研究者とのネットワークを構築することができた。これは、本研究の射程とする「移民」に出自のルーツを持つ者の就業状況に関する調査の足がかりとなるものであり、2020年度以降の研究の基盤として位置づけている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、文献及び資料の収集・分析は概ね予定どおり順調に進んだものの、2020年に入りフランス国内でも新型コロナウィルスの感染拡大の影響から、2月末から3月にかけて予定していたインタビュー調査を軒並み延期とせざるを得なくなった。また、2020年6月までの間に予定されていたコンファレンス等も延期や中止となっている影響もあって、当初の予定より研究の進捗はやや遅れている。 また、本研究を進める中で、公共的な場所において顔を隠すことを禁止する法律(いわゆる2010年のブルカ禁止法)の制定過程で議論された公法学における「公序(ordre public)」の概念(憲法院及びコンセイユ・デタの判断)に関する研究を(本研究に付随する研究として)実施することが必要不可欠であると判断し、2020年2月頃より資料・文献の収集にあたっている。 上記のような状況にあって、本研究全体としても、進捗がやや遅れている状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で予定しているインタビュー調査等のうち、可能なものについてはWEBを介した方法で実現する方策を目下探っている状況である。しかし、当該インタビュー調査等は、インタビュイーの居住する地域の調査や所属する施設細部の見学、あるいはインタビュイーからの資料の入手等を目的とすることがほとんどであり、新型コロナウィルス感染拡大の終息を待ち、安全かつ自由に出入国できる環境が整った段階で、本研究で予定しているインタビュー調査等を渡仏して再開する予定である。 文献研究については、当初の予定どおり、2019年度に入手した資料・文献の研究を進めて行く計画に変わりはない。 また、予定している社会調査データについては、WEBで公開されているものの他、書籍等から入手できるデータの洗い出しを優先して行い、新たなデータの取得に向けた準備を進めて行きたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2019年度は在外研究で1年間フランスに滞在していたため、研究代表者が支出した金額を立て替え払いし、所属機関(中村学園大学短期大学部)での精算を帰国後の3月下旬に一括して行った。この結果、決済の手続きを年度内に完了させることができなかったことが次年度使用額が発生した大きな要因である。 次年度使用額として繰り越した金額については、2019年度に立て替え払いをした金額の精算に充てる他、当初から予定していた文献及びモバイルパソコンの購入等によって使用する計画である。
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