2019 Fiscal Year Research-status Report
Analyzing the Implementation Process of International Law: A Case Study of an Agreement between South Korea and Japan Based on the United Nations Convention against Transnational Organized Crime
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19K01319
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
金 惠京 日本大学, 危機管理学部, 准教授 (30638169)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 法実現 / 国際法 / テロリズム / 日韓比較 / 人権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で重視する点は、日韓におけるテロリズムに関わる法実現について、国際法ならびに両国の歴史・政治・社会の影響を総合的に判断し、どのような背景で法整備がなされていくのかの一端を明らかにすることである。 第一の研究実績としては「韓国の民主主義を活性化させた自由権と憲法」『国際人権』30号、2019年.が挙げられる。同論文では、ろうそくデモに代表される韓国における政治集会が、どのような背景により他国に比べて大きな影響力を持つに至ったのかを検証した。現象を表面的に見れば、世論の圧力を政治が受け易い状況と見なされることもあるが、自由権規約21条において集会の自由は認められており、韓国が同規約へ1990年に加入する際の前提となる「憲法をはじめとする各種の法整備」および「民主主義を求める市民を支援する国際的潮流」に注目することで、視角は大きく変わる。特に、大韓民国憲法21条にて、集会に対して公権力が集会の許可を与えることを認めないとしたことは注目に値する。 第二に、「国際テロリズムにおける変遷と課題」『危機管理学研究』4号、2020年.である。同論文では、フランス革命期から現在までに至るテロの変化を俯瞰した。一般的には、20世紀初頭までのテロは「権力者が恐怖により自らの政策を強行させるもの」であったが、その後は「自らの政治的意図の実現を目指し、時の政権や権力者に対して市民の側が行うもの」へと変化したとの認識があった。しかし、本稿では①2006年のリトビネンコ事件、②2017年の金正男殺害事件、③2018年のジャマル・カショギ殺害事件から、「権力者が海外に居住する関係者の殺害をもって、自らへの恐怖を国内支配に活用する」という、ある意味で先祖返りともいえる状況が近年発生していることを指摘した。これは最新のテロに関わる動向を捉える意味で、非常に有用な成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は「研究実績の概要」で紹介した2本の成果が刊行されたが、研究課題の進行としては下記の進捗も重要である。 まず、実際の発表を行うのは2020年度となるが、韓国・延世大学国家管理研究院のイ・ジョンス教授と日韓におけるテロ捜査に関わる公安組織の情報収集に関しての比較研究を行った。当方の担当部分では、日本の事例を戦後から現在までの視角で整理し、日本の情報機関が他の官僚機構に比べても政権との距離が近く、政権の意向に方針が左右され易い点を指摘している。 次に、本研究の主題である「日韓の国際組織犯罪防止条約受容」については、研究計画上、2019年度は日本の共謀罪について検証を加える予定としており、実際に研究を進めていたが、2019年度内に発表を予定していた学会誌が出版社変更に伴い、2020年5月に刊行日が変更されたことにより、研究実績という形での成果が出ていない状況が発生した。同稿では、研究計画調書に記載のKim(2015)以降の国際組織犯罪防止条約締結に伴う日韓両国の動向について整理した。そこで日本の課題として指摘したのは、日本政府が共謀罪をテロ等準備罪と名称を変更して、国際組織犯罪防止条約締結のために、テロ対策を主眼とする法改正が不可欠との論理を取っていた点である。本来、同条約は「国を跨ぐ犯罪組織が経済的な利益を得るために起こす犯罪を防止する」との意図が主軸に置かれており、韓国はその方針に沿ってテロに関わる法には注目せず、①条約に記載されている処罰要件への適応、②ギャンブルに関する刑法の改正、③人身売買対応関連法制の整備などを行った。国際組織犯罪の一端がテロであることは疑いないが、日本においては同条約の趣旨に対して早期締結を実現する意図から、不適切な解釈がなされた危険があるとの指摘を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究に際しては、日本の課題を整理した面が強い。本研究は日韓の比較研究を主軸としていることから、2020年度は韓国の課題を検討することで、最終年度である2021年度における理論的検証に向けての根拠を見出すことを目指す。 取り扱う事例としては、日韓両国でしばしば発生する強行採決についての検討を考えている。通常、強行採決が行われる場合、政権与党(あるいは連立与党や協力政党との合算議席数)が国会で過半数を有していることを利用して、法律上あるいは人権上問題があり、市民やマスメディアからの反発が強い法案の審議が滞る状況にあることが多い。近年の韓国では2016年にテロ防止法が国会で可決される際に、強行採決が行われた。本研究のキーワードにも挙げている法実現に際しては、立法府である国会での議論や姿勢の検討が欠かせない。日本でも、国際組織犯罪防止条約締結のための「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」改正に際して、強行採決が行われた経緯があり、こうした行動は韓国のみの課題とは言えない。しかしながら、韓国が朴正煕大統領による軍事独裁下にあった1969年には、憲法改正に際して政府が与党議員と示し合わせ国会外に議場を移して採決が行われた事例がある。金(2019)でも指摘したところであるが、1987年以降の韓国政治は、軍事独裁色の強い朴正煕政権や全斗煥政権の克服が一つのテーマであったことを考えれば、それと逆行する強行採決がどのような論理で行われるのかを明らかにすることで、韓国の法をめぐる特性や課題を明らかにできると考えている。 そうした問題意識の下、「韓国における関係機関での聞き取り」「メディア分析」「文献分析」を通じて、問題の所在を明らかにしたい。また、日韓両国以外の強行採決に関する事例も検討し、より俯瞰的に状況を精査する。
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Causes of Carryover |
2019年度については、当初予想していた予算で研究関連経費を賄うことができた。 次年度においては、主たる研究対象が韓国であることから、韓国への旅費、同地での文献購入費、諸経費などの支出が予想される。また、国際的な状況比較もしなければならないことから、日本語および英語文献等の購入費の計上も予想される。
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Research Products
(3 results)