2020 Fiscal Year Research-status Report
Analyzing the Implementation Process of International Law: A Case Study of an Agreement between South Korea and Japan Based on the United Nations Convention against Transnational Organized Crime
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19K01319
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
金 惠京 日本大学, 危機管理学部, 准教授 (30638169)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 法実現 / 国際法 / テロリズム / 法社会学 / 日韓比較 / 人権 / 国際組織犯罪防止条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究における具体的な事例としては「国際組織犯罪防止条約」の法実現が挙げられ、より大きなテーマとしては日韓両国のテロ対策比較が挙げられる。ここでは、その両面からの2020年度の研究実績を報告する。 第一の研究実績としては、「国際組織犯罪防止条約締結に伴う国内法化の過程比較-日韓における人権認識を軸に」『エトランデュテ』3号、2020年.が挙げられる。同論文では、研究計画調書に記載のKim(2015)以降の国際組織犯罪防止条約締結に伴う日韓両国の動向について整理した。そこで日本の課題として指摘したのは、日本政府が共謀罪をテロ等準備罪と名称を変更して、国際組織犯罪防止条約締結のために、テロ対策を主眼とする法改正が不可欠との論理を取っていた点である。本来、同条約は「国を跨ぐ犯罪組織が経済的な利益を得るために起こす犯罪を防止する」との意図が主軸に置かれており、韓国はその方針に沿ってテロに関わる法には注目せず、①条約に記載されている処罰要件への適応、②ギャンブルに関する刑法の改正、③人身売買対応関連法制の整備などを行った。国際組織犯罪の一端がテロであることは疑いないが、日本においては同条約の趣旨に対して早期締結を実現する意図から、不適切な解釈がなされた危険があるとの指摘を行った。 第二の研究実績としては、イ・ジョンスとの共著論文「日本の国家情報機関の変遷と相互関係-公安警察・公安調査庁・内閣情報調査室を中心に」『国家管理研究叢書』52号、2020年.【※原文は韓国語】が挙げられる。同論文では、日本の国家情報機関の変遷を踏まえた上で、政権との距離が近いことでテロ対策等の情報収集だけでなく政権の意向が反映されやすい状況を指摘した。その上で、国家情報院等の組織と比較を行った。韓国でも情報機関と政権の距離は近いものの、保守・リベラル間の政権交代が多いために、一定の緊張関係も存在している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度に刊行を控えている2020年度の研究の進捗としては、①国家テロのグローバル化、そして②韓国の民主化をもたらした経緯および現代までの連続性を指摘した研究が挙げられる。本研究課題の根底には、「現代におけるテロの実情の検証」や、「特定地域の法社会学分析」があり、上掲の進捗はその文脈に位置する。 国家テロのグローバル化についての研究は、2019年度の研究成果の金(2020)を大きく発展させた面が強い。歴史的にテロは国家が恐怖(terror)を統治に活用する所から始まったことは広く知られているが、それが次第に市民の抵抗や特定国家への反発の手段としての側面を強くしてきた。しかし、2010年代に入り、国家が従来の国際法的枠組みを無視する傾向が強くなるにつれて、フーコーが『監獄の誕生』にて衰退したとした前世代的な「見世物としての死」がメディアを通じて国際的に拡散する状況がある、との指摘を軸として検証を行った。 韓国の民主化については、事実は知られてはいるものの、その位置づけについて日本では余り知られていない部分である。その意義を100年の韓国現代史の中でどう位置付け、歴史的事実を正確に捉えることで、韓国を法社会学的に分析する研究基盤が確立できると考えた。具体的には、韓国の保守とリベラルの対立構造を朴正煕と金大中、朴槿恵と文在寅の人物史を通して検討した著作を記し、刊行予定である。日本の植民地支配、朝鮮戦争、開発独裁、民主化、そして2016年から2017年にかけてのろうそくデモを一連の事項と捉える視点を提供することは、韓国社会への分析や理解に大きく貢献すると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後予定している研究としては、第一に、民主化の国際的な支援体制について検証したものである。民主化の支援体制については、2019年度の研究成果である金(2019)においても、1987年の韓国の民主化に対してアメリカ政府の支援や国際人権法体制が次第に整備されていったことが大きな影響を果たしたと指摘したが、「同様の要因が他地域の民主化においても影響をもたらしたのか否か」という点についての検証を行う。こうした研究を進める意義として、①未だ民主化を希求する市民の声が上がりながら、国家が国際的な非難があっても制圧しようとする事例が散見される点、および②研究課題の対象地である日本と韓国に対する分析が、一般性を持つのかを明らかにする点がある。 第二に、2020年度の成果である金(2020)において、「日韓の国際組織犯罪防止条約受容を事例に」とする本研究課題の事例研究が一定の成果を挙げたと考え、「テロ対策」という文言が法実現にもたらす影響について、日韓以外の地域の事例を検討し、その一般性を検討することを検討している。特に、AIの発展等により大量の情報処理が可能になったことで問題が一層深刻さを増しているプライバシーの管理と「テロの脅威」の関係性について検証を深めたい。 最後に、研究実務の課題を挙げておきたい。本研究課題は現地における資料整理や聞き取りが大きな役割を持つ、ある意味で社会学的な要素の強いものである。しかし、新型コロナウイルスの広がりにより、調査対象地である韓国への渡航、日本における図書館の使用、聞き取り調査の困難など、予想外の制限も発生している。特に、今後予定している日韓の事例の一般性を検証するために研究対象を広げる際には、大きな障害になることが予想されるため、文献調査をより充実させる必要がある。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大により、当初予定していた韓国への渡航が困難となり、国会図書館等を用いた資料収集の機会が入館人数制限等により減少したため、次年度使用額が生じた。また、次年度は研究対象の拡大に伴い、必要とする文献資料が多くなることが予想され、2020年度の不使用額を活用できると考えている。
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