2019 Fiscal Year Research-status Report
国際スポーツ法における人権保障に向けた新たな動向に関する実証的・理論的研究
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19K01320
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
石堂 典秀 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (20277247)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国際スポーツ法 / 人権保障 / メガスポーツイベント / グリーバンスメカニズム / 人権デューディリジェンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、スポーツ並びにスポーツイベントにおいて発生する人権侵害問題を解決するための新たな取組を調査研究し、国際的な人権保障に向けた流れや法的枠組みを明らかにしていくものである。2019年度は、日本スポーツ法学会年報第26号掲載「スポーツにおける暴力・ハラスメントに対する海外での取り組み事例」において、IOCが公刊した「スポーツにおけるハラスメントと虐待からアスリートを保護するツールキット」を中心にしながら、子どもや選手たちに対する暴力やハラスメントを防止する各国の先進的な取り組み事例を紹介し、今後の法的枠組みについて論じた。このIOCのツールキットこれは、国際競技団体並びに世界各国のオリンピック委員会に向けて書かれたものであるが、スポーツ選手の安全・安心なスポーツ環境の実現並びに人権保障のため、非常に重要なテキストであると位置付けることができる。特に、わが国では、平成25年にスポーツ界から出された「暴力根絶宣言」以降も指導者による体罰は一向に絶える様子がみられない。抜本的な法改正を含めた制度改革の必要があると考える。 また、スポーツ団体の民主的な運営も国際的なトレンドとなってきている。2019年7月のシンポジウム「スポーツ団体の民主的運営とガバナンス」(日本スポーツ法学会)では、コーディネーターとしてガバナンスコードをめぐってスポーツ団体の抱える課題などについて議論した。また、日本スポーツ法学会学会大会(12月)では、オーストラリアにおけるインティグリティ改革とスポーツ審判所設置のきっかけとなった、CASの紛争解決の問題点などについて報告を行った。中京大学法務研究所の研究会(12月)において、「2019年の国際スポーツにおける人権問題の動向」について報告を行った。そこでは、ハキーム事件、イランのスタジアム問題、セメンヤ事件などを取り上げて議論を交わした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、マインツ大学(ドイツ)と筑波大学共催のもと、第10回国際スポーツビジネスシンポジウム(10th International Sport Business Symposium)の報告者に選定され、2020年8月4日に「A New Trend towards Human Right Protection in Sport Mega Events」というテーマで報告する予定となっていたが、コロナウイルスの影響のため、2021年に延期となった。本報告は、スポーツにおける人権をめぐる紛争を解決するための紛争解決機関の必要性とともに、現在のスポーツ仲裁裁判所(CAS)の限界ないし問題点を指摘する予定であった。既に、CASの問題点については、2019年日本スポーツ法学会の個別報告「オーストラリアにおけるスポーツ審判所とスポーツにおける紛争解決の在り方に対する一考察」で触れたところであるが、セメンヤ選手の出場資格をめぐる性別判断の枠組みにおいて人権を考慮していく枠組みがこれまでのCASの仲裁判断においては未発達であることが明らかになった。今後、オリンピックやワールドカップ等の開催都市契約に盛り込まれる人権条項から発生する紛争をCASが十分に扱うことができるのかどうかこれまでの仲裁事案を参考にしながら、その可能性について検討していく予定である。また、2020年9月に予定されていた2020横浜国際スポーツ会議では、学術企画委員として「スポーツにおけるビジネスと人権」「スポーツと子どもの人権」などのテーマで海外から専門家をお呼びして、現在、国際的に懸念される人権問題等について議論を深める予定であった。同会議はコロナウイルスの影響のため、大幅に変更となる予定であるため、コロナウイルスの収束を待って、別途、海外の専門家とのシンポジウムを企画していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
先述した、国際スポーツビジネスシンポジウムが2021年の8月に延期となったため、引き続き、同報告に向けた準備を進めていく予定である。また、コロナウイルスが収束次第、IOC、FIFA、スポーツと人権センター等へのヒアリング調査を実施したいと考えているが、長期化するようであれば、オンライン会議システムを活用しながら、ヒアリングを行いたいと考えている。 本調査では、スポーツイベントの開催者であるIOCやFIFAが開催都市契約に人権条項を盛り込んだことによってどのようなリスクや紛争が持ち込まれると考えているのか、またこれら紛争をどのような方法によって解決していこうと考えているのかについてヒアリングをする予定である。また、今後より多くの人権問題が持ち込まれることが予想されるスポーツ仲裁裁判所(CAS)においてもどのような取り組みがなされようとしているのかについても調査を行う予定である。さらに、今回のコロナウイルスの影響により、スポーツ界は、オリンピックの延期も含めて、深刻な影響を与えている。特に、アスリートには代表選考の延期ややり直しなど様々な不利益が生じてきている。プロスポーツ界でもクラブの破綻や経営悪化による、契約選手への給与未払いや給与カットの問題も発生してきている。コロナウイルスがスポーツ界に実際にどのようなインパクトを及ぼしたのかについても調査を行い、このようなパンデミックな状況でのメガスポーツイベントのあり方やこれからのリスクマネジメントについてもヒアリング調査を行いたいと考えている。また、その中で、この問題についてスポーツと人権センターやデンマークの人権研究所などとシンポジウムの企画についても進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年3月に海外から研究者(デンマーク人研究所)を招聘する予定にしていたが、コロナウイルスの影響のため、キャンセルとなった。また、研究代表者も本年3月に海外調査に行く予定にしていたが、コロナウイルスの影響のため、キャンセルとなった。 2020年度は、コロナウイルスの収束後に、スイスを中心とした海外調査を行うとともに、その成果報告として海外から数名の研究者(スポーツと人権センター、デンマーク人権研究所等)を招聘し国際シンポジウムを開催したいと考えている。難しいようであれば、オンラインシステムを使った会議に切り替えていきたいと考えている。
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Research Products
(4 results)