2019 Fiscal Year Research-status Report
国際法における多元主義の理論とその展開―国連安保理の制裁と人権規範の相克―
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19K01322
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
加藤 陽 近畿大学, 法学部, 准教授 (90584045)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国際法 / 多元主義 / 国際立憲主義 / 国連憲章 |
Outline of Annual Research Achievements |
本件研究は、冷戦後に活性化した様々な法秩序の間で生じた衝突や抵触に対処するための理論を示す多元主義を検討する。初年度では、グローバルな法秩序における立憲主義と多元主義の対立を考察した。異なる法秩序が錯綜した形で単一の対象を重畳的に規律する諸現象に対し、立憲主義は法秩序全体の統合を主張し、多元主義は分散性を維持したままの秩序論を展開する。本年度の検討の結果として第一に、様々な理論を全体として三つに区分しつつ主要な論者の主張を検討したが、それぞれにかなりの共通点がみられたため、全体の見取り図を描くことは予想以上に容易であった。特に主軸となる理論として、Fassbender (2009)、Peters (2017)、Berman(2012)、Krisch(2011)などを特定した。第二に、主要論者の理論内容を仔細に検討した結果、理論内容に極めて重要な変化が見受けられた。これは近時の判例・事例の展開を受けてなされた修正であると考えられ、しかもこのような主張の変化は異なる立場の対立を比較するうえで重要な意味を持つと思われる。本研究が依拠する多元主義の意義を補強するものであるとも位置付けられる。第三に、立憲主義の理論においても分散性を志向する側面があり、さらに多元主義においても統合を志向する側面がある。論者によっても多様な形で両側面が存在するが、これらをどのように本研究に組み入れるかは困難な問題である。また、それぞれの理論は一般的な形態をとっていたとしても、念頭に置く実証的現象が必ずしも同じではないため、それらを比較する際には注意が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目的は、多様な立場についてうまく見取り図を描き、次年度以降の実証的検討のための理論的視座を明らかにすることであったが、この目的はおおむね果たせた。関連する理論は文字通り枚挙にいとまがないほどであり、その内容も多様であるが、それらにある程度の共通軸を見出しうまく整理することができた。さらに、研究当初は理論的立場を三つに分けることを想定していたが、詳細な分析の結果、この分類はなお維持可能であることも明らかになった。もっとも、グローバルな空間において乱立する法的秩序の重畳的適用状況を理論的に検討する理論は国際法にとどまらず、憲法、EU法、国際私法などの隣接領域においても展開されている。正確な理解と整理には相当の時間が必要であり、未着手の部分も残っているため、次年度以降もこの点について研究を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
理論的整理を一通りおこなったため、今後は上記の理論的積み残しを解決しつつ、実証的側面から各種判例や国連安保理決議において展開されている動向を分析していく。初年度で整理した理論の三分類にしたがって各種判例・事例を分類し、それらにおける議論の特徴や問題点を分析することにより、理論の実践的適用の状況や問題を明らかにしていきたい。具体的な素材としては、欧州司法裁判所Kadi事件や欧州人権裁判所Al-Dulimi事件などであり、英国最高裁Serdar Mohammed事件など国内判例でも注目すべき動向がある。次年度以降は実証研究が中心になるとしても、これらの検討の結果、初年度の理論分析が影響を受ける可能性もある。すでに理論的枠組みを構築してはいるが、それを硬直的なものとして設定するのではなく、理論的考察と実証的考察の相互作用に注意を払いつつ研究を進めていく。
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