2020 Fiscal Year Research-status Report
国際法における多元主義の理論とその展開―国連安保理の制裁と人権規範の相克―
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19K01322
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
加藤 陽 近畿大学, 法学部, 准教授 (90584045)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国際法 / 多元主義 / 立憲主義 / 国際立憲主義 / 国連憲章 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度の理論的分析をふまえた上で、関連する実践の展開を検討した。すなわち、欧州人権裁判所のBehrami事件、Al-Jedda事件、Al-Dulimi事件、Nada事件の他、自由権規約委員会のSayadi事件、EU裁判所のKadi事件などをそれぞれ丹念に分析し、これらが立憲主義と多元主義の理論的視座からどのように評価されるかを考察した。とりわけ、それら事件の判決(見解)が結論を導く際に依拠する理由付けが理論的評価の際に非常に重要な要素になる。また、関連する司法的機関がおかれた法的立場や、それら諸機関のこれまでの判例との整合性なども分析した。 さらに、近時の動向として、英国最高裁のSerdar Mohammed事件に注目し、これに詳細な検討を加えた論文(「国連安保理の制裁に対する人権適合的解釈」浅田正彦、桐山孝信、德川信治、西村智朗、樋口一彦編集『現代国際法の潮流Ⅰ-総論、法源・条約、機構・経済、海洋、南極・宇宙』(東信堂、2020年)258-279頁)を公表した。国連安保理の授権に基づく個人に対する拘禁措置は、すでに上記Al-Jedda事件判決でも論じられていたが、同様の構図で議論が展開したSerdar Mohammed事件の英国最高裁判決は、欧州人権裁判所とは異なる議論を導いた点で非常に重要である。特に、安保理決議に対し人権適合的解釈を加える上で依拠した人権規範の実質的内容が重要である。裁判所のこうした議論構成は、本研究が検討の対象とする立憲主義と多元主義にとって非常に重要な理論的含意を有している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の主な目標は、初年度の理論的検討をふまえた上での実証的分析であったが、これはおおむね達成できたと考えている。各判例の分析の結果は、前年に考察した理論的な枠組みとも非常に適合的であった。とりわけ、当初の研究計画の段階で着目していた諸判例に加え、Serdar Mohammed事件英国最高裁判決の分析結果を本研究にうまく取り込めたため、本研究をよりいっそう進展させることができた。基本的には、研究計画の段階で想定していた内容を大きく逸脱する発見や議論は見当たらず、むしろこれまでの研究の成果は当初の構想を補強する場合が多かったため、この意味でも研究は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、初年度の理論的研究と本年度の実証的分析を統合し、まとめて公表することを目的として研究の仕上げを進めていく。この段階では、すでに検討した理論や判例をあらためて見直し、全体として議論の細部の調整を図っていかなければならない。最終的に研究の結論を示すにあたっては、法理論としてそれがどの程度の射程をもったものとして提示するかが重要な点になるように思われる。また、本研究では、異なった方法論や背景をもつ複数の理論を扱うが、まとめる段階では、こうした諸理論の相違に注意して議論を展開していかなければならない。
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Causes of Carryover |
昨年より生じた新型コロナウィルス感染症の問題により社会活動が制約されたため、研究費を使用する機会が減少した。例えば、関係する学会は不開催になり、あるいは研究会などもオンライン上で実施されたため、旅費が生じなかった。次年度以降の状況はまだ不明確であるが、状況を適切に判断しながら研究費を使用したい。
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