2019 Fiscal Year Research-status Report
競争法によるオンライン・プラットフォーマー規制とギグ・ワーカーの保護に関する研究
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19K01326
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
長谷河 亜希子 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (00431429)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プラットフォーム労働 / 独占禁止法 / 競争法 / 経済法 / ギグ・ワーカー / 労働市場 / フリーランス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、競争法の観点から、オンライン労働者、ギグ・ワーカー、フリーランス等が抱える諸問題に関しての対応策について検討することを目的としている。本年度は、主として次の2点について研究を進めた。一つ目は、日本のオンライン労働者やフリーランスを巡る問題状況と議論の把握・分析である。通常、このような形態の働き手は個人事業主とされ、労働基準法上の労働者ではないことから労働法上の保護を受けられない場合が多い。従って、経済法による解決策についても検討はされている。しかし、例えば、報酬減額などが独禁法上の優越的地位の濫用規制により問題解決が図れるかと言えば、訴訟コスト等を勘案すれば私訴は期待できない。解釈面でも、受注者の発注者への依存度が低いと、発注者側の優越的地位の立証が難しい場合が多いと考えられるなど、難点が多い。他にも、下請法や中小事業等協同組合法などの観点からも検討を行った。二つ目は、主として米国で盛んに議論されている競争法上の労働市場分析である。米国では、労働市場の集中度の高さが賃金停滞の一因ではないかとの分析がされている。同じく賃金停滞の一因として、競業避止義務や、引き抜き防止協定など、労働者の移動を妨げるような行為が指摘されている。これらの制限的行為は、フリーランスや、オンライン労働者がターゲットとなる場合もある。 現状、世界各国で様々な対応が取られつつある。例えば、「労働法上の労働者ではない者」についての判断基準について厳格な立場をとる判例を確立し、それを立法につなげる(カリフォルニア州)、社会保障の対象者を拡大する、労働条件を契約時に提示すべき労働者の範囲を広げる(主として欧州)、小零細事業者の集団交渉等の共同行為を競争法の適用除外とすることで交渉力を強める(近年の法改正例として豪州)等である。いずれも、制度導入から間もない場合が多く、評価は今後の課題となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでのところでは、日本におけるオンライン労働者、ギグ・ワーカー、フリーランス等の問題状況を把握し、現行の法制度の枠内での対応策とその限界について検討を行うことができた(2019年8月2日の日本弁護士連合会消費者問題対策委員会独禁法部会及び電子商取引部会での研究報告や、「中小商工業研究」掲載論文等)。また、諸外国での議論状況、とりわけ米国の労働市場分析に関する議論や、豪州の小零細事業者らの集団交渉制度の導入などについて、導入的研究に着手し、次年度への足掛かりを作ることもできた(2020年2月15日東京経済法研究会での研究報告など)。従って、おおよそ順調な進捗状況と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、例えば厚労省で、雇用関係にない働き手の保護に関する議論が継続していることから、それら議論について把握することで、引き続き、日本でのフリーランス等に関わる問題状況等の把握に努める。続いて、米国の競争法上の労働市場分析に関する議論の研究を進める。非常に興味深い論点がいくつも提示されている。例えば、企業結合規制においては、市場集中度に着目するが、その際、企業結合の当事者の製品・サービスの市場集中度のみならず、その際の労働市場の集中度の上昇という要素を考慮すべきか否かが議論されており、注目したい。他にも、引き抜き防止協定に関しては、フランチャイズ加盟店間の従業員引き抜き防止協定に関して、競争法上どのように判断すべきかについても議論となっている。当該引き抜き防止協定を、競争法上、当然違法の水平的制限と見るか、合理の原則が適用される垂直的制限と見るかで、原告(通常は、引き抜き防止協定の影響を被るフランチャイズ加盟店の従業員である)の立証負担は大きく異なる。かつての判例は後者であったが、この数年で、前者の立場が強くなりつつあるようであり、詳細な判例分析を行いたい。他にも、豪州の小零細企業による共同行為(取引先との集団交渉など)の競争法適用除外制度について、詳細が固まりつつあることから分析を行いたい。日本にも、既に中小事業等協同組合法など、中小事業者の共同行為が独禁法の適用除外となる制度はあるものの、十分に活用されているとはいいがたい。その理由を把握し、同時に、比較法上の研究などから、改善策のヒントを得るための研究を行っていきたい。
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