2020 Fiscal Year Research-status Report
社会保障における選択と集中の法的意味 フランス家族給付の社会保険的性格を題材に
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19K01332
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
清水 泰幸 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(教員養成), 准教授 (90432153)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会保障法 / フランス / 家族給付 / 所得再配分 / 選択と集中 / 家族係数 / 税制 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を大きく受けた。前年度から引き続き、文献の渉猟および講読は進めているものの、2021年5月現在、海外への出張は不可能であり、2019年度および2020年度に予定していた2回の現地調査をいずれも実行できないままここに至っている。これにより研究の方向性をより原理的ないし理論的なものに見直すことになった。 現状では、研究のアウトプットというレベルには至らず、引き続きインプットを行う段階にある。具体的には、2020年2月、東京社会保障研究会にてフランスの所得税制上の家族の位置づけについて報告したことにより、テクニカルな部分がむしろ問題の核心を構成していることに気付き、それ以降、税制上の細部を詰めるのに腐心している。すなわち、多子家族の優遇という家族政策の一般論としては明快な方針が、結果的に富裕層を優遇しているという「ねじれ」ないし格差の問題について、これを招く諸要素を見極める作業を行っている。 給付面については、フランスの家族手当は、多子が貧困に繋がるという社会的事実を背景に誕生したが、現在では、こうした前提はそのままでは当てはまらず、家族と格差の問題は複雑さを増している。家族と貧困という視点では、貧困施策にバイアスが効き過ぎる嫌いがあり、この点については、ピケティ氏の研究等を参照しつつ、給付と税制の双方を通じた再配分についてより検討する必要がある。 また、より原理的な検討を深めるために、昨今、話題になっているプレラ氏の『フランス公法学における自由の原理』の講読を進めている。フランスの学界では平等の原理の研究は枚挙に暇がないが、現代の文脈で「法原理としての自由」に取り組んだものは珍しい。特に、連帯の原理との関係を明らかにするために、自由の原理の研究は有効な切り口ではないかと思われ、この方針で進めて行く予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
進捗状況の遅れの理由としては、2020年度の前半は、リモート講義の準備のために時間と労力を取られ、またいわゆる行動変容に心身が付いていかず、研究に集中できなかった。また秋口はともかく、2020年末から2021年に掛けてもあまり良い状況とは言えなかった。 とりわけ、フランスに渡航可能となる見通しが立たないため、現地調査の予定が完全に宙に浮いてしまっている。代替的な方法が存在しないことから、より原理的ないし理論的な面で研究のウェイトを増やしていくしかないと思われる。こうした事情により、当初より時間を要することが見込まれる。 なお、国内の研究会はリモートで開催されるものの、闊達な議論というのは難しく、他の研究者から刺激を受ける機会も制限されているのも悩みの種である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、フランスでの現地調査の目処が立たない以上、より原理的ないし理論的な検討を増やすことで対応をしていくことになる。研究の遅れそのものについては、より時間を要する研究方針を採用することになったこともあり、研究期間の延長により対応するしかないと思われる。また、国内外ともに旅費の執行がままならないため、使途についても再考する必要に迫られている。現状では、未執行の部分を物品の購入や研究期間の延長に当て込むことが現実的であると思われる。
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Causes of Carryover |
2020年度と2021年度に予定していたフランスでの現地調査を延期したために、それぞれ次年度使用額が生じている。世界的に新型コロナウイルス感染症が終息すれば現地調査に行くことを考えていたが、2021年5月現在、渡航可能になる見通しが立たない。研究期間を延長することにより機会を得たいが、不可能な場合は電子機器等の購入に充てることを考えている。
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