2022 Fiscal Year Research-status Report
調査協力の誘引を与えつつ抑止力が確保される独禁法等のエンフォースメントの研究
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19K01334
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
泉水 文雄 神戸大学, 法学研究科, 教授 (50179363)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 独占禁止法 / エンフォースメント / 課徴金減免制度 / 調査協力減算制度 / 裁量型課徴金 / 優越的地位の濫用 / デジタル・プラットフォーム / 確約手続 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、体系書『独占禁止法』(有斐閣、全802頁)を公刊し、そこにおいて、課徴金制度、課徴金減免制度、調査協力減免制度、確約手続等について、わが国における論点について網羅的に検討するとともに、EU、米国と対比しつつ比較法による検討をも行った。同書の第9章(全110頁)において該当箇所を公表するとともに、第3章、第5章、第6章において関係する論点について公表した。これで本課題に関する大部分の研究成果を公表することができた。 優越的地位の濫用のエンフォースメントについて、ラルズ事件東京高裁判決に注目し、同判決の実体法上の論点を検討するとともに、違反行為期間の問題を含む課徴金の算定の問題を検討した。 同じく優越的地位の濫用のエンフォースメントに関連して、民事訴訟の役割を検討したものとして、食べログ事件東京地裁判決の判例研究を公表した。そこでは、民事訴訟における優越的地位の濫用規制に役割を示すとともに、デジタルプラットフォームによるアルゴリズムの変更がいかに規制されうるかを、欧州の事例の検討も含めて、行った。 また、近時、競争政策としての重要性が高まっているアドボカシーを含めた実態調査、ガイドライン等が果たす、競争法におけるエンフォースメントでの役割を検討する研究成果として、「独占禁止法の業際的発展」を公表した。 「電力市場の今後」では、電力市場における制度改革(自由化、市場化)がもたらした新たな競争政策上の課題を検討した。 デジタル市場競争会議およびWGに参加し、モバイルOSをめぐる競争法上の規制のあり方を検討する作業に参加するとともに、EUのデジタル市場法(DMA)等を検討しつつ、新しい競争法の規制手法としての「事前規制」の検討に参画した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
独禁法のエンフォースメントのあり方について、比較法研究を進めることができた。その成果として、体系書『独占禁止法』(有斐閣)に公表するとともに、本年度は、ジュリスト、法学教室、公正取引に成果をこいう評することができた。 本研究については、計画画では、海外、国内出張による情報収集、資料収集、意見交換を予定していたが、コロナ禍によりほとんど実施ができなかったことは大きな研究計画の変更となったが、オンライン会議が頻繁に利用でき、国内・国際のいずれも研究会にむしろ活発となり、実務家等へのヒアリングも進展した。 デジタル・プラットフォームのエンフォースメントについても、比較法研究をすすめるとともに、政府の立案に参加し、多数の論文を公表することができた。以上のように、研究期間においておおむね当初の計画どおり、研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度(2023年度)は、独禁法のエンフォースメントのあり方について、残っている課題を検討する予定であった。とりわけ、EUのデジタル市場法(DMA)等で取り入れられた事前規制等を中心に、デジタル・プラットフォームのエンフォースメントについて、最新の外国の状況を踏まえて、比較法研究を行う予定であり、それを昨年度に採択された科学研究費補助金(基盤研究(C))でさらに発展させる予定であった。同時に、取引透明化法、個人情報保護法、消費者保護法について、競争法の役割と事業法等がどのように補完的規制を行うべきかについて検討する予定であった。その際は、2023年4月からは私立大学に着任し研究を進める予定であった。 しかし、2023年4月13日より、公正取引委員会の委員に就任することとなり、同委員は原則として兼職・兼業が禁止されているために、本研究課題としては継続することが困難となった。本研究の計画段階では想定していない事態になったが、同委員は、上記の研究対象を、法執行・立法を含めた実務面において対応するものということができ、想定外の事態ではあるが、上記の研究と実務とを活かし融合することにより本テーマの進行には中長期的に大きく貢献するものと考えられる。
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Causes of Carryover |
研究計画では、海外、国内出張による情報・資料収集、意見交換を予定していたが、コロナ禍により実施が困難な状態が続いており、海外出張ができず、国内出張もわずかにとどまった。 これまでにおいては、海外、国外出張に代え、オンライン会議を利用し、国内および国際的な研究会に参加することでかなり代替できた。なお、オンライン会議の機材はすでに本科研等により購入済みで、通信費は所属大学から支出を得た。そして、実務家等へのヒアリングも頻繁に行った。この面では、ある程度代替できただけでなく、当初計画よりも進展したという面がある。最終年度は、必要な出張はできる限り行いつつ、オンライン会議を利用し、国内および国際的な研究会に参加できると考えられる。可能な限り出張を行いつつ、オンライン会議を利用しつつ、本研究の成果を公表していく予定である。 ただし、突如、2023年4月13日より公正取引委員会の委員に就任せざるをえなくなり、兼職・兼業が禁止されていることから、最後の仕上げはできないことになった。
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