2021 Fiscal Year Research-status Report
「協議・合意制度」および「刑事免責制度」に関する訴追裁量のコントロール
Project/Area Number |
19K01341
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
黒川 亨子 宇都宮大学, 共同教育学部, 准教授 (40590534)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 訴追裁量 / 協議・合意制度 / 司法取引 |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国において新設された協議・合意制度および刑事免責制度(以下、新制度という)には、起訴の公正性を担保する制度が存在せず、検察官の権限行使の在り方次第では、起訴の公正性が疑われる事態が発生する危険性がある。本研究のひとつの目的は、新制度の下で、どのような場合に許されない訴追裁量権の行使となるのかを解明することである。 2019年度は、アメリカ合衆国における訴追裁量の行使に関する内部規制のためのガイドラインについての文献研究を行い、検察官が訴追決定や司法取引を行うにあたり、考慮できる事項および考慮すべきでない事項ならびに遵守すべき行動規範などを検討した。 2020年度は、(1)上記ガイドラインが、実際には効果的に機能していないこと、(2)検察官の不当な恣意的決定や取引は、秘密裏に行われるために、弁護人が発見するのは困難であること、(3)また発見できた稀なケースにおいても、法的な救済を求める立証のハードルが非常に高いことから、弁護人が、異議を申し立てることは非現実的である、ないし有罪答弁により異議申立ての機会がそもそも存在しないという実態を明らかにした。 2021年度は、前年にひきつづき、検察官の裁量行使の無作為性および恣意性が問題となった事例を拾い集めた。例えば、(1)司法取引において検察官が行う決定が、意図的に人種を考慮した結果であることはほとんどないものの、当該判断が、無意識の偏見の結果である場合があること、また、(2)検察官は、司法取引の決定をする際に、いくつもの要因(証拠の強度、被害者の関心など)を合法的に考慮することができるものの、検察官の個人的な偏見が、これらの要因の検討に影響を与え、意思決定プロセスを汚染する可能性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の2021年度の研究計画では、判例研究を行い、不当な訴追裁量の行使となるための要件や立証方法を分析することであった。 しかしながら、文献研究によって、不当な訴追裁量の行使を裁判で争うことは、非常にハードルが高く非現実的であることが判明したため、(1)検察官の不当な取引事例や恣意的事例を分析すること、また(2)不当な取引を防止するための手段として、学説による検察の改革提案などを検討することに切り替えた。 (1)についてはおおむね順調に進んだものの、(2)については不十分であることから、以上のように判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ひきつづき文献研究を実施する。不当な取引を防止するための手段として、学説によっていくつかの改革提案がなされている。それらを検討することによって、わが国への示唆を得たい。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響で、学会や研究会がオンライン開催となったため、出張費の出費がなかったことが主な原因である。今年度、対面での開催が可能であれば、予定通り使用したい。難しいようであれば、文献研究などのための使用に切り替えたい。
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