2019 Fiscal Year Research-status Report
企業の証拠収集行為は,如何なる場合に,捜査機関の行為と評価されるか。
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19K01346
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
原田 和往 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (20409725)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 私人による証拠収集 / 社内調査 / 協議・合意制度 / 国家行為 |
Outline of Annual Research Achievements |
憲法修正4条との関係で私人による証拠収集活動の適否が問題となったアメリカ連邦最高裁判所の判例を分析した。具体的には,Burdeau v. McDowell, 256 U.S. 465 (1921), Coolidge v. New Hampshire (1971), Walter v. United States, 447 U.S. 649(1980), United States v. Jacobsen466 U.S. 109 (1984)等の分析を行った。また,Skinner v. Railway Labor Executives' Association, 489 U.S. 602 (1989)をもとに,憲法学において,私人間適用に関して参照されているState Action(国家行為) の法理と,刑事訴訟法学における私人による違法収集証拠排除の法理との関係について,整理し,今後,研究を遂行していく際の基本的視座を整えた。 また,本研究の端緒の一つとなったUnited States v. Stein, 541 F.3d 130 (2d Cir. 2008)(刑事訴追を回避するための企業の取り組みが,国家行為(State Action)に該当し,修正6条の弁護人選任権を侵害すると判断された事例)について,本研究の問題意識を明らかにすることを目的として,事実関係と裁判所の判断の特徴を整理し,研究ノートとして公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画では,2019年度には,憲法修正4条との関係で私人による証拠収集活動の適否が問題となったアメリカ連邦最高裁判所の判例を分析することとしていた。これによって,アメリカの判例法理が,捜査機関の明確な指示がある場合と,私人が自発的に証拠収集行為を行なった場合という極限において,妥当な結論を明確に導出するものであるが,多数の事例が属する中間領域については,諸般の事情を考慮した上での,個別具体的の判断を要請するものであることを明らかにすることが目的であった。昨年度中に,上記の部分については,研究を遂行することができた。 また,協議・合意制度の導入が決定されてから,企業が刑事事件への関与が疑われた場合に,内部調査を行い,関連資料を収集し,違反行為者個人を特定するなどして,協議・合意制度の積極的な利用を検討すべき旨を指摘する国内文献が多数公表されている。しかしながら,他方で,内部調査と捜査の関係次第では,内部調査が捜査機関の行為と評価され,本来であれば内部調査には適用がない,刑事訴訟法等の規律が及ぶ場合があるのではないか,との本研究と問題意識を同じくする検討は,管見のかぎり,見受けられない。そこで,今後,本研究に関連して外部から有益な指摘を受けるためには,まず,本研究が想定する問題状況を具体的に示す必要があると考え,当該問題状況が現実のものとなったアメリカの事例を取り上げ,事実関係と裁判所の判断の特徴を整理し,研究ノートとして公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究で,連邦最高裁判所の関連判例については,一応の収集・分析を終えることができた。今後は,大枠としては連邦最高裁の判断枠組みに従いながらも,判断手法が統一されていない連邦控訴裁レベルの裁判例を分析していく。具体的には,まず,連邦控訴裁判所の多数が採用する手法のもととなったとされるUnited States v. Walther, 652 F.2d 788 (9th Cir. 1981)を中心に分析を行う予定である。そして,他の手法と比較しながら,当該判断手法が,私人の当該証拠収集行為に対する捜査 機関の認識又は黙諾の有無,証拠収集行為を行う私人の意図・目的如何の2つの要素に着目する点に特徴があることを明らかにしていきたい。 また,昨年,ニューヨーク南部地区裁判所が,犯罪事実に関する調査を企業の内部調査に完全に委任する捜査手法を批判する判断を示した(U.S. v. Connolly)。本研究の理論的関心とは異なる判断のように見受けられるが,問題状況は同じであるため,こちらも関連する学術情報を収集し,分析を加える予定である。 なお,昨年の調査において,インターネットサービス関連企業の行為について,State Action該当性を認めた上で,修正4条にいう捜索にあたるとの判断を示した裁判例を新たに発見した。内部調査に関わるものではなく,本研究が着目する問題状況とは前提を異にしているが,理論的な問題は同じといえる。この事件の法定意見を執筆したNeil Gorsuch裁判官は,現在,連邦最高裁判所の裁判官になっていることもあり,この判決の判断手法,理論構造についても,分析を加える予定である。
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