2019 Fiscal Year Research-status Report
具体的事故事例分析を通じた自動運転車の交通事故に関する刑事責任の研究
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19K01355
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
中川 由賀 中京大学, 法学部, 教授 (50802881)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自動運転 / 自動走行 / 交通事故 / 刑事責任 / 法的責任 / 道路交通法 / 道路運送車両法 / 道路交通条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は,(1)「レベル4の限定地域での無人自動運転移動サービス」の具体的事故事例を設定して刑事責任について検討するとともに,(2)来年度以降の研究の基礎として,2019年に改正された道路交通法及び道路運送車両法の改正内容の分析を行った。 (1)社会実装可能性・事故発生可能性の高い事例を選定するという観点から,2019年度は,政府が2020年までの社会実装を想定している「レベル4の限定地域での無人自動運転移動サービス」を主な研究対象とした。具体的には,遠隔型自動運転システムにおける自動運行装置作動中及び遠隔操作中の事故事例を設定し,事例分析を行った。事例分析に当たっては,①比較対象として,従来型自動車の類似事例を設定して刑事責任の検討を行うとともに,②民事責任との相違についても検討した上で,③問責の可能性のある責任主体を網羅的に検討するため,遠隔監視者,整備管理者,管理監督者,自動運転車作成者といった複数の責任主体に対する刑事責任の検討を行った。 以上の検討を通じて,自動運転移動サービスにおける事故においては,様々な関係者が組織的な営業の一環として行った活動が複雑に絡み合って事故の結果が生じるのに対し,個人責任の追及を基本原理とする刑事責任のあり方が事故実態から乖離していくおそれがあるという問題点を指摘し,法人の刑事責任の問責に関する議論が必要である旨を提言をした。 (2)翌年度以降の研究の基礎として,2019年に改正された道路交通法及び道路運送車両の改正内容の検討を進めた。検討に当たっては,2017年に改正されたドイツの道路交通法と比較することによって,日本の改正内容の特徴を明らかにした。 以上の検討を通じて,日本の法律の建付けとしては,道路運送車両法の下位規範で定められる使用条件及び保安基準が特に大きな意義を有することになることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度における研究計画は,「既に社会実装がされているレベル2以下の実際の事故事例,2020年の社会実装が予定されているレベル3及び4の事例について,①事例設定・②事例選定を行い,併行して,順次,③事例分析も進める。」というものであるところ,2019年度は,基本的に当初の研究計画に沿って研究を進めつつ,2019年5月の関係法規の改正を踏まえて,その改正内容の分析作業にも注力するという対応もした上で着実に研究を進めており,現在までの進捗状況は,以下のとおり,概ね順調に進展している。 (1)2019年度は,2020年の社会実装が予定されている自動運転のうち,「レベル4の限定地域での無人自動運転移動サービス」について具体的事故事例を設定し,問責の可能性のある責任主体の刑事責任について網羅的に検討し,「研究実績の概要」記載のとおりの研究成果を得た。 (2)2019年5月にレベル3以上の社会実装に向けて道路交通法及び道路運送車両法が改正されたことから,これを踏まえて,2019年度は,レベル3の具体的事故事例分析に向けた基礎的研究として,上記改正の内容の分析を行い,翌年度以降にレベル3の具体的事故事例分析を行うための基礎付けができた。 (3)既に社会実装がされているレベル2については,国内外の実際の事故事例の情報収集及び分析を進めるとともに,メーカー関係者及び自動運転車の研究者等から今後懸念される事故態様等についての情報収集も進めてきており,これらを踏まえて,翌年度以降の分析の対象とすべき事故態様の選定作業も順調に進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は, (1)レベル2の具体的事故事例分析を行うとともに,(2)レベル3について,国内外の法規の分析及び車両技術等の情報収集を行った上で,分析の対象とすべき具体的事故態様の設定・選定作業を進め,(3)レベル4について,2019年度の具体的事故事例を通じて得られた知見を踏まえ,今後の法制度のあるべき方向性の検討を進める。 (1) レベル2については,既に国内外での事故が複数発生しており,2019年度の研究では,これらの事故事例の情報収集及び分析を進めるとともに,自動運転車の研究者等から今後懸念される事故態様等についての情報収集も進め,これらを踏まえて,分析の対象とすべき事故態様の選定作業も進めてきた。そこで,2020年度は,レベル2について,具体的事故事例の分析を行う。 (2) レベル3については,国内的には2020年3月に車両の技術基準に関する国土交通省令等が公布され,国際的には2020年に国連において技術基準に関する合意が予定され,2020年を目途に高速道路における自動パイロットが市販されることが想定されている。そこで,2020年度の研究では,国土交通省令等及び国連の安全基準の分析を行うとともに,市場化された車両の技術等に関する情報収集を進め,それを踏まえて,社会実装可能性・事故発生可能性の観点から,分析の対象とすべき具体的事故態様の設定・選定作業を進める。 (3) レベル4については,2019年度の研究で具体的事故事例分析を行った。そこで,2020年は,2019の具体的事故事例分析を通じて得られた知見を踏まえ,今後の法制度のあるべき方向性の検討に発展させていく。
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Causes of Carryover |
プリンターインク等の購入に備えて,1万円に満たない端数を残しておいたところ,当該年度内に購入の必要が生じなかったため,次年度の購入に持ち越した。
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Remarks |
「法の視点から見たこれからの点検整備・車検制度のあり方」『自動車技術』自動車技術会,vol.73,2019年7月
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