2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K01357
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
増井 敦 京都産業大学, 法学部, 准教授 (10411018)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲谷 龍彦 京都大学, 法学研究科, 准教授 (40511986)
田村 正博 京都産業大学, 法学部, 教授 (70546093)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 児童虐待 / 児童相談所 / 警察 / 検察 / 刑事的介入 / 多機関連携 / 性暴力 / 被害者支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 国内の児童相談所・警察・検察における児童虐待対策の実態調査を進めたほか、仏国立高等司法安全研究所での調査を行った。さらに、児童相談所、警察、検察の実務者らと共に実態に即した課題状況の整理を行った。その成果は、日本刑法学会関西部会における共同研究として報告した。概要は以下の通りである。 (1)資源の効率的な配置という観点から、多機関連携のあり方を見直すべきである。①実力行使を必要とする緊急事態においては、福祉機関へ強制的権限を付与・強化するよりも、警察の立入り権限を拡張することで対応したほうがよい。②全ての通告に対していわゆる48時間ルールを実施するのは非効率だから、通告事案のトリアージを行うべきである。③機関同士の情報共有のため個人情報保護法制の一元化が必要である。④機関相互および対象者との信頼関係構築に支障が生じ対応が妨げられる事態を回避するため、検察官が、刑事政策の現場ディレクターとして、大局的な観点から児童虐待事案における処分の方針を決定し関係諸機関をコーディネートするかたちで、問題解決型の刑事司法トラックを設計する必要がある。 (2)①起訴裁量の柔軟な活用による問題解決を図る実務に対応し訴追裁量指針を整備する必要がある。②逮捕制度を利用して被虐待児童から加害者を引き離す法運用に代わりうる行政上の退去命令手続を整備するべきである。 (3)児童虐待事案における司法面接結果を実質証拠として活用することが望ましい。その際、被虐待児童に特別の配慮が必要であることをふまえ、証人審問・喚問権保障との関係も整理する必要がある。 2 性暴力被害者支援に関するシンポジウムを開催し、性暴力被害者の現状と課題について精神医学的、心理学的知見を得たうえで、具体的な支援として福岡県性暴力根絶条例と病院型ワンストップ支援センターを取りあげ、刑事的介入と多機関連携のあり方を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は、児童虐待事案に関して、実態調査により現場の抱える課題を明確にし、それらの課題について実態に即した解決の方向性を見いだすこととしていた。児童虐待対策の実態調査については、児童相談所・警察・検察の現場の第一線で事案解決に取り組んでいる実務家の協力を得ることができたことから、単なる訪問調査にとどまることなく、共同研究のかたちで、具体的な問題に踏み込んだ議論を重ね、問題状況を整理することができた。また、幾つかの課題については、実務家との議論を通じて、改善の方向性を一定程度見いだすことができ、その成果の一部について学会報告を行うことができた。さらに、年度の終盤では、児童虐待事案に加えて、性暴力事案に関する検討にも着手することができた。もっとも、今年度計画していた海外調査のうち、フランスへの海外調査は実施できたものの、年度終盤に予定していた韓国への訪問調査は、不測の事態が生じたことにより海外渡航が困難となったため実施できなかった。しかしながら、今年度の研究課題の目標には一応到達できたし、実施できなかった海外調査に代えて性暴力問題への検討を開始したなど、以上の進捗状況を総合すると、概ね順調に進展したものと評価するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、明確となった具体的な課題の一つ一つについて、既にある程度見いだしつつある解決の方向性を踏まえて、より具体的で実践可能な提言のとりまとめに向け、まずは理論的課題の解決のための検討を進めていく予定である。本研究の最終的な目的は、問題解決に資する具体的な提言を示すことであるから、理論的に解決すべき問題をある程度整理できた段階で、提言をさらに具体的で実践可能なものとするべく、実務家らとともにその実現可能性について検討を深めたいと考えている。 その際には、海外の調査・文献研究を含め幅広い知見を視野に入れると共に、問題が現在進行形であることをふまえ、常に現在の議論状況をフォローしながら研究を進めていく必要があると考えている。 ただし、現下の状況においては、海外調査がどの程度実施できるか不透明であり、また国内においても、訪問調査に関してはすぐに実施することが難しい状況にある。継続的な実態調査においては、オンラインを活用した代替手段を検討するほか、文献調査にウェイトをややシフトすることも考えている。
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Research Products
(8 results)