2021 Fiscal Year Annual Research Report
Testamentary Capacity in the Lucid Interval
Project/Area Number |
19K01361
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
岩本 尚禧 小樽商科大学, 商学部, 教授 (80613182)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 遺言 / 遺言能力 / 意識清明期 / 認知症 / Banks v Goodfellow / 神経科学 / 自由意思 / 遺言の撤回 |
Outline of Annual Research Achievements |
認知症が遺言の作成に及ぼす影響について研究した。最初の問題は、認知症の進行が常に変動することを踏まえつつ、認知症の症状が一時的に回復しているかのように見えるタイミングで遺言が作成された場合に、その遺言の効力を認めてよいかどうか、という点である。まず、この問題を日本民法が想定していたかどうか、について確認した。その結果、確かに日本民法973条は、精神疾患者の精神能力の「一時回復」について規定しているものの、民法起草者は同条が予定する精神疾患として認知症を想定していなかったことが判明した。同条の精神疾患として認知症を含め得るかどうか、は認知症それ自体の研究に加えて、認知症と遺言能力の関係性についても研究する必要性が確認された。そこで続いて、この問題を検討するため、国外の法制に目を転じ、イギリス法の遺言能力要件を研究した。イギリス法を取り上げた理由は、同国における1870年の判例「Banks v. Goodfellow 事件」が精神疾患と遺言能力の関係性について検討し、これが現在もなお確立した判例として妥当しており、我が国の法解釈にとって参考に資すると考えたからである。その結果、確かに同判例は現在も確立したものとして理解され、認知症患者が遺言を作成した事案についても適用されていることが判明した。それと同時に、同国では絶対的遺言自由という歴史的背景も影響してか、遺言者が記憶障害を持つ認知症患者の事案においても裁判所は遺言能力を安易に肯定する傾向にあり、しかもこうした裁判所の立場は近年の医学的な認知症研究の成果と必ずしも整合しない、ということも判明した。近年の医学的な認知症研究の成果によれば、認知症患者の精神能力が一時的に回復することは認められるものの、それは遺言能力を回復させる程度ではなく、しかも遺言能力には遺言者の記憶が重要である、ということが提示されているのである。
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