2020 Fiscal Year Research-status Report
民法から見た平成期日本の社会変動―法規範生成論と比較法社会論の観点からの考察
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19K01363
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
大村 敦志 学習院大学, 法務研究科, 教授 (30152250)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 民法 / 平成期日本 / 社会変動 / 立法 / 判例 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、民法(民法学を含む)の変化を指標として平成期日本(1989-2018)の社会変動を総括する試みである。 2020年度は、前年度に引き続き、平成期の日本(1989-2019)に関する全般的な文献、政治、外交、社会、経済、文化に関する一般的な文献を収集し、これらを分析することを通じて、この時期の法的課題との大まかな対応関係を明らかにすることを課題としたが、一応の検討枠組を構築し、その内容を特殊講義の形でまとめた。 その後、この特殊講義をもとにして、平成期日本の社会と法の変化に関する考察をまとめる作業に着手し、一通りの作業を終える段階にまで達した。具体的には、社会変動の特色、立法による対応、判例による対応、学説による対応につき、それぞれ暫定的な結論を得る状態に至っており、それらを説明するための新著の原稿も一部を残して完成している。 特にアジアからの留学生を相手にした講義を新たに行う中で、東アジアにおける日本法の展開の普遍性と特殊性に関する意識を高めることができたのは予想外の成果であったが、上記の枠組み(著書)には、この成果も部分的に取り込むことができた。 しかしながら、コロナ禍により、外国での調査を進めることはできなかったため、比較の観点からの考察を補充して、研究を補充・整理する段階がなお残された状態である(本年度も海外渡航が困難な状況が続く場合には、この点については多少の方向転換が必要になるかもしれないので、その際の対応についても現在検討中である)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
予定していた文献収集等は、なお補充が必要であるものの、おおむね順調に進行している。 また、研究成果の仮のまとめも国内・国外での特殊講義・集中講義等を通じて行うことができた。具体的には、平成期日本社会を特徴づける長期要因、短期要因をそれぞれ抽出し、この期間中に発生した特徴的な法現象を取り出した上でそれらを分類整理するとともに、上記の両要素によって説明するための枠組を暫定的に構築することができた。これによって、今後、個別の法現象の分析を進める上での前提を整えることができた。特に、枠組仮構築にあたっては、検討の視野に入れるべき法現象につき、暫定的なものではあるがその抽出と位置づけを行うこととなったが、これは今後の個別分析の予備作業になったと言える。その意味では、計画以上の進展があったと評価することが可能である。 コロナ禍による影響のうち、コロナ禍を通じて可視化された平成期日本の諸問題については一定程度まで研究に取り込むことができた。その結果、全体の構想は予想以上に早くまとまりつつある。ただし、必要な外国調査が行えない状態が続いており、この点のフォローが必要である。 最後の点は残る問題ではあるが、この点を勘案しても、本研究は現時点では「当初の計画以上に進展している」と評価できるであろうと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も基本的には当初の計画に基づいて研究を進めることを予定している。 すなわち、2021年度は、平成期日本に生じた重要問題(たとえば、バブル崩壊、55年体制の終焉、阪神淡路大震災・東日本大震災などの出来事や少子高齢化の長期的傾向)に関する文献を収集し、これらとの関係でこの時期の民法関連の立法・判例の動向(立法に関しては、成年後見・担保制度・ 保証・法人制度・親権濫用・成年年齢のほか債権法改正・相続法改正などの民法改正、および借地借家法、製造物責任法、債権譲渡特例法、特定営利活動促進法、消費者契約法、児童虐待防止法、DV防止法、区分所有法、性同一性障害者特例法、信託法などの関連特別法の制定・改正など。判例については個別の引用は省略するが、特徴的な判例30件程度を選び出した)について位置づけを行う。また前年に実施できなかったフランスでの調査・インタビュー等を行い、その結果をこれまでの研究成果に反映させたい。 なお、コロナ禍を通じて、「日本的なもの」あるいは「アジア的なもの」への対応・言及の必要性が強く意識されるに至ったのを受けて、次の二つの方向での探索範囲の拡大を考えている。一つは、社会変動の長期要因・短期要因のほかに、超長期要因とも言うべきものを考慮に入れることである。このためには広く近代・前近代の日本社会に関する検討が必要になるが、本来の研究との関連で有益な絞り込みのための方策を考えていきたい。もう一つは、中華人民共和国民法の成立を考慮に入れつつ、(同民法の内容ではなく)その背後にある東アジアの法伝統についても何らかの形で検討を及ぼすことを考えたい。 このうちの前者は前年度に一定程度まで行ったので、2021年度は可能な範囲で後者も視野に入れたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により海外調査を延期せざるを得なかったため、旅費を使用する機会がなかった。海外調査に代えて、国内から発注可能な文献・資料等を購入したが、なお、残金が残った。次年度の調査の際に、買い残しの文献を購入する予定である。
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Research Products
(2 results)