2019 Fiscal Year Research-status Report
Benefits of Civil Disputes Resolution And Its Cost
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19K01364
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金子 宏直 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 准教授 (00293077)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 民事訴訟費用 / 受益者負担 / 消費者 / 文書の電子化 / 破産手続 / キャッシュレス社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
訴訟類型に応じた民事訴訟費用について研究するにあたり、2019年度は、日本の民事訴訟法の母法であるドイツ法に関する民事訴訟法の解説書、裁判所費用法等について資料収集を行った。訴訟費用に関連する訴訟手続の改正経過等の記載はあまりみられす、従来制度に関する原則等については大きな変化は起きていないと推定できる。訴訟費用の分野については実務的な問題であり、裁判実務等についての検証が必要になると考えられる。 日本における訴訟費用実務についての裁判例(主に決定)における原則等についての変遷について考察した。平成8年民事訴訟法改正で行われた、費用額確定手続の裁判所書記官への職務移譲が行われたが、裁判所書記官が計算業務を中心として実体法上の判断は訴訟費用負担の裁判において裁判官に残されていることとの関係から、平成8年改正後には書記官も参照可能な判断基準の役割が必要で重要であることについて考察を行った。研究成果論文として、金子宏直「民事訴訟費用の裁判と費用額確定処分」現代民事手続法の課題(春日偉知郎先生古稀祝賀)pp.293-313(信山社2019年)を公表した。 また、キャッスレス化の進展により消費者破産の増加に対応する紛争解決の法制度に関する検討として、国際学会に参加し、Hironao Kaneko, Resent Consumer Finance and Bankruptcy in Japan, LSA 2019, D.C. (U.S.), May 31, 2019ならびにHironao Kaneko,Promotion of Cashless Transaction and Consumer Bankruptcy in Japan, ALSA 2019 Osaka Univ. Dec.12-15, 2019で報告ならびに報告セッションの進行を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツ法でも裁判所費用法等の注釈書等の資料は図書館等の所蔵も少なく最新版を入手することが必要になる。これらの資料の入手に時間を要する面があるが、順次入手が行えており、2019年度はまずこれらの整理等を行った。本研究の要素である、訴訟費用と訴訟類型の関係について考察を行うにあたり、貸金返還請求等の訴訟上の利益が明確な場合ではなく、そもそも訴訟上の利益が必ずしも明らかではない場合に、訴訟上の利益=訴額として訴訟費用額の算定する基準とする考え方が、紛争の解決に結びついた考え方なのかを検討する必要がある。また、紛争解決時点で費用負担を決定するという考え方についても、紛争解決という訴訟上の利益が実現できたのか否かが明確な場合と不明確な場合があり、不明確な場合には負担の判断が不可能=平等分担ないし当事者負担にすることが一貫性があるかを検討する必要がある。これまでの判決手続においては、本案の判断と訴訟費用の負担の判断を関連付けるのか否かについて必ずしも一貫しているとは思われず、紛争解決全体から訴訟費用の賦課と負担の判断にあたっても、訴訟上の利益がどのように係るかについて検討が必要であることが分かってきた。 貸金返還請求といった訴訟上の利益が明確である場合を除き、それ以外の訴訟上の利益が明確ではない訴訟の類型の場合について、より広く学説上の議論や裁判例を考察することで、これら2点についてより明確な訴訟上の利益の果たす役割について明確になると推定でき、2020年度の研究の手順や方向性がつかめたたため、2019年度の研究はおおむね順調に進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
貸金返還請求以外の必ずしも訴訟上の利益が明確ではない訴訟の類型の場合について、より広く学説上の議論や裁判例を考察することで、訴訟上の利益の果たす役割についても明確になると推定できる。そこで、2020年度も、この方向で研究を継続していく予定である。本年度は、訴訟上の利益が必ずしも明確ではない、すなわち、訴訟上の実体法上の請求権と訴訟の結果により実現したい紛争解決の利益が法律上明確な規定で定められていないような場合についても考察を加えていく予定である。その一例として、近隣訴訟、迷惑訴訟といった、英米法ではニューサンスとよばれる紛争類型について、妨害排除請求、自力救済禁止にあたらない正当行為(緊急避難、事務管理)に基づく請求について、どのような訴訟上の利益が問題となり、費用負担がどのようになるのかについて検討を行う予定である。それらの研究成果は国際学会等で研究報告を行うことを目標とする。 また、近年家族法についての改正も行われており、家族間の紛争における費用負担の問題も、個々の紛争解決手続きとの関係で検討を行っていくことを予定している。これらの紛争では、実体法上の請求権という概念を離れた後見的な紛争解決という視点も加わること、紛争解決の実効性を高める扶養料請求に関する強制執行法上の手続の改善等が行われトータルな紛争解決におけるその訴えの利益というものを考察するのに適した分野であると考えられる。 2019年度は日本民事訴訟法の母法であるドイツ法の基本的な資料の更新を行ったが、2020年度は、ニューサンス等の英米法において議論が盛んな分野についての問題を取り扱う関係で、これらの問題に関連する基本的な資料等の整理を行っていく予定である。 また、裁判手続IT化、キャッスレス化という社会状況変化のなかで裁判手数料や訴訟費用の処理についてもこれらの変化との関連も考察する予定である。
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Causes of Carryover |
差額が生じた理由: 研究資料として予定していた外国資料の入手に時間がかかり、代替的に国内法に関連する資料の購入を前倒したため、当初の予算執行の予定と差額が生じることになった。 差額に関する使用計画: 使用差額については、予定していた外国資料の購入のために次年度予算と合わせて書籍資料の購入のために使用する予定である。
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