2019 Fiscal Year Research-status Report
Comprehensive Study of Succession and Estate Planning
Project/Area Number |
19K01365
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
常岡 史子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (50299145)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 民法 / 相続法 / 家事事件手続法 / 配偶者居住権 / 遺産管理 / 遺言執行 / アメリカ法 / ドイツ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年7月6日に民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号。以下改正相続法と言う)が成立し、相続法に関する1980年以来の重要な改正となった。本研究では、改正相続法の法的意義と実効性に関する考察を出発点として、「人」と「財産」を基軸に私有財産制における財産の承継と管理の制度としての相続法制の法理について考究することを目的とする。 研究の具体的内容として、①被相続人の死亡を契機とする財産承継における公平性の確保と共同相続人間の紛争回避、②法定相続、遺言、遺留分の各制度の根幹にある私有財産の承継に関する被相続人の意思とその推定に関する法原理、③経済的価額のみよって評価することの困難な財産を含む被承継財産の相続法的評価と承継人としての相続人の法的地位、④相続放棄や相続人不明によって②、③の軸の外に位置するに至った相続人不存在財産を中心とする遺産の統合的管理制度の構築、⑤遺言執行における遺産の管理・清算・分配機能と④の遺産管理制度との連携における司法的手続の検討を対象としている。 さらに、社会における相続の規範的認識を読み取る上で、諸外国の制度との比較法的考察が有用であるが、特にその対象としてアメリカ法及びドイツ法の分析が有益である。これに加えて、人と資本の流動化によりエステイト・プランニングを規律する相続法制の統一的な法的安定性が共通の要請となっているEUの動向についても、文献及び現地調査を実施する。 これらの考察を通じて、改正相続法の構造と個々の規定に表れる相続の規範認識を理論化し、現代社会における相続制度の実体法的機能及び相続財産の実効的な管理・承継のための手続法理を示すことをねらいとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、2018年の相続法改正により民法に新たに設けられた配偶者居住権・配偶者短期居住権及び特別の寄与制度等に関する研究を遂行した。さらに、これら新規に創設された制度にとどまらず、今回の改正では、相続による権利の承継に関して無権利の法理と対抗要件主義の整合性を貫徹するための重要な改正があわせて行われており、この点についても検討を進めた。その主な対象となるのは、相続不動産や預貯金債権の承継である。そこで、本研究では、民法に新設された権利の承継の対抗要件に関する民法899条の2に焦点を当て、不動産及び預貯金債権の相続における相続人の権利と第三者との関係を考察した。 なお、2020年2月、3月にドイツとアメリカで検認裁判所(probate court)及び遺産裁判所(Nachlassgericht)における遺産管理及び遺言執行手続について現地調査を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルスの影響によって渡航することができなくなり、現時点ではこの点についての研究の進捗にやや遅れが生じている。ドイツ及びアメリカの相続法制については文献資料をもとに研究を行っているが、2020年度以降において2019年度に実施できなかった上記の現地調査を含め、比較法研究の精度を上げていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
日本及びアメリカ、ドイツ、EUの相続法制に関する研究を進める。日本については、①生存配偶者の保護と他の相続人の「相続する権利」、②被相続人の親族の特別の寄与と相続人の法的義務、③遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権への改変と遺留分権利者の法的地位について検討するとともに、④改正相続法の重点であった生存配偶者の居住用不動産確保のニーズと現代社会における相続財産としての不動産の意味について、家庭裁判所の調停・審判例、相続放棄の申述等に関するデータをもとに地域、当事者の年齢、家族構成等の要素を踏まえ分析する。また、⑤相続人不存在及び限定承認、財産分離における民法の遺産管理制度と改正相続法で導入された遺言執行・遺産管理手続との比較考察を進め、相続財産の管理・清算・分配制度の全体像と個別の課題を検討する。 アメリカについては、統一検認法典及び同法典に拠らない独自の州法を持つカリフォルニア、ニューヨーク等の有力州の検認法における無遺言相続・遺言相続制度と、検認外の相続代替制度を検討する。 ドイツは、死者の財産に関する実体法規範として法定相続による包括承継を民法の原則としつつ、一定の財産につきその枠外での承継を認めている。そこで、本研究では人的会社(Personengesellschaft)等の事業用資産に関する特別相続(Sondererbfolgen)及び居住用建物の法定特別承継(Sonderrechtsnachfolge)の規範原理を法定相続との対比において分析する。 さらに、相続法の共通ルールをめぐるEUの動向について文献の調査・収集を行い、相続制度の実体面及び相続財産の管理・承継手続に関する統一的理念と具体的規律の可能性について検討する。 これらの考察を通じて、国や文化の枠を超えた現代社会における実体的及び手続的相続法規範理論を明らかにする。
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Causes of Carryover |
2020年2月、3月にドイツとアメリカにおいて、検認裁判所(probate court)及び遺産裁判所(Nachlassgericht)の実務に関する現地調査を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルスの影響により渡航することができなくなり、今年度について出張旅費の支出がなくなった。そのため今年度に上記調査・研究のため支出予定であった380,000万円の出張旅費を次年度使用額とし、2020年度にドイツ及びアメリカでの調査と研究を実施する予定である。 このような事情により、今年度はドイツ及びアメリカの相続法制については文献資料をもとに研究を行っているが、2020年度以降において2019年度に実施できなかった上記の現地調査を含め、比較法研究の成果を上げていきたいと考えている。
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Research Products
(5 results)
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[Book] 家族法2020
Author(s)
常岡史子
Total Pages
539
Publisher
新世社
ISBN
978-4-88384-306-0
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