2020 Fiscal Year Research-status Report
日仏における契約法のグローバル化と民法理論の変容に関する比較法的検討
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19K01378
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
野澤 正充 立教大学, 法学部, 教授 (80237841)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 瑕疵担保責任 / 契約不適合責任 / ウィーン売買条約 / 原始的不能 / 後発的不能 / 危険負担 / 所有者責任主義 / 債権法改正 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の2020年度における課題は、これまでの研究の延長線上にある、「瑕疵担保責任・危険負担を含む双務契約の法理について、日本とフランスの規律を比較検討する」ことにあった。この課題に応えるために、本研究は、瑕疵担保責任の法的性質について、フランスの現代的な学説の導入を試みた時的区分説の検討を行った。すなわち、時的区分説は、瑕疵担保責任も過失責任であるとの主張をするため、フランス法上の結果債務の概念を前提に、①売買契約における売主の引渡義務が結果債務である、②瑕疵のある物の給付が売主の責めに帰すべき債務不履行である、③瑕疵が不可抗力に基因する場合には売主が免責される、という命題を提示した。このうち、①はフランス法においても異論がない。しかし、②はフランス法においても議論が分かれていること、そして、③は、フランスにおいても、国際的なルール(グローバル・スタンダード)においても、さらには、わが国の民法(債権関係)の改正においても、明確に否定されていることを明らかにした。その結果、瑕疵担保責任は、「危険負担」(=瑕疵)と「錯誤」(=隠れた)という2つの側面を有し、買主による目的物の「受領」は、この両者の基準時となりうるものであるが、錯誤からの説明を試みる時的区分説は、その基盤を失う。すなわち、国際動産売買統一法やウィーン売買条約のように、「瑕疵」が隠れているか否かを問わず、全ての「不適合」を一律に扱うことがグローバル・スタンダードとなった現代では、錯誤論を中心に据えた時的区分説は、時流に追われることが明らかとなる。その反面、本研究では、危険負担の法理による瑕疵担保責任ないし契約不適合責任の理解が重要であることを明示した。このことは、改正民法を理解するうえでは重要であり、フランスの債務法改正の将来をも見据える指標を提供するものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、コロナ禍により、フランスやベルギーでの調査を行うことができなかった。しかし、フランス・ベルギーの研究協力者とは、メールやオンラインによるコンタクトをとることができた。また、民法(債権関係)の改正による、瑕疵担保責任から契約不適合責任への移行については、これまで継続的に執筆してきた論文(「瑕疵担保責任の比較法的考察」)の完結まで、残すところわずかとなった。そのほか、民法改正による民法の基本原理の変容についてフランス語で書いた論文が、フランスの雑誌に掲載された。これにより、フランスの研究者が、本研究に対してアクセスできるようになり、その引用に際しての内容についての問合わせもすでに受けている。したがって、コロナ禍による影響を否定することはできないものの、本研究は、全体としては、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、2021年度を最終年度とする。それゆえ、最終年度においては、本研究の成果として、上記の論文(瑕疵担保責任の比較法的考察)を完結させるとともに、その出版を計画したいと考えている(出版そのものは2022年度となろう)。その内容は、まさに本研究の課題である、契約法のグローバル化と民法理論の変容を著すものである。すなわち、本研究は、伝統的な瑕疵担保責任から、危険負担の法理を介して、債務不履行責任の1つである契約不適合責任へと移行する過程を明らかにし、民法の基礎理論が変容したことを明らかにするものである。 併せて、フランスの債務法改正における議論を検討し、可能であれば、当初からの予定である、フランス・ベルギーでの調査を行いたいと考えている。このフランス・ベルギーでの調査においては、所有者責任主義(Res perit domino)以外の、ローマ法以来の法原則である、「何人も不能な債務に拘束されない」(Impossibilium nulla obligatio est.)という原則が、今後どのように変容してゆくか、という動向を見定める予定である。
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Causes of Carryover |
本研究では、フランスおよびベルギーにおける研究調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、渡航を断念(キャンセル)せざるを得なかった。そのため、次年度使用額が生じてしまった。 2021年度は、改めて海外調査を行うとともに、研究成果のまとめのため、データ入力等をお願いするアルバイトを使用する予定である。
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Research Products
(3 results)