2020 Fiscal Year Research-status Report
物権債権峻別論に関する批判的考察-歴史的経緯・現行法上の意義・解釈論と立法論-
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19K01379
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大場 浩之 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10386534)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 物権債権峻別論 / 物権変動 / 不動産公示制度 / 物権法定主義 / 制限物権 / ius ad rem / 物権行為 / ドイツ法制史 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度においては、前年度に行った物権債権峻別論に関するローマ法の分析に引き続き、ドイツ法の検討を行うことができた。すなわち、当該テーマに関するドイツ法の歴史的観点からの分析である。 ドイツ法との関連で、中世における物権概念を考察するにあたってけっして避けることのできない概念が、Gewere(ゲヴェーレ)である。物権との関係で決定的な役割をはたしていたGewereは、あたかも所有権を含めた物権そのものを体現する概念であった。すなわち、Gewereとは、現代法における所有権と他物権を包摂する概念だったのである。Gewereの概念は、物権法定主義と明らかに反する。Gewereの特徴は、その包括的な概念そのものにあるからである。 15世紀頃になると、ローマ法に再び注目が集まり、それがあらためて解釈されるようになるとともに、ローマ法がさまざまな法分野と法学分野に受け入れられるようになった。いわゆるローマ法の継受である。物権債権峻別論を検討するにあたって、ローマ法の特徴を分析するとすれば、ローマ法が物権と債権を厳格に分けていたことにある。 ドイツにおけるローマ法の継受は、16世紀末にほぼ完結したとされる。もっとも、ローマ法が継受されたといっても、その原初的な内容がそのままドイツ法として受け入れられたわけではない。ローマ法とゲルマン法の融合がなされるとともに、この時代の実情にそくしたローマ法の新たな解釈も行われた。いわゆる、usus modernus pandectarum(パンデクテンの現代的慣用)である。そして、ここで重要な役割をはたしたのが、自然法あるいは自然法概念である。自然法は体系を重んじる思想をもっていたこともあり、この自然法概念に立脚する法典が多く編纂されることになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を強く受けた。本研究もその例外ではなかった。当初予定していたドイツへの研究出張をまったく行うことができなかった。このことは、とりわけ、ドイツにおいてのみ入手可能な文献を閲覧したり分析したりすることができなかったという点において、研究の停滞をもたらす一因となりえた。 しかしながら、ドイツの研究者に対するインタヴューをZoom等で行うことによって、当初の予定として見込まれていた、物権債権峻別論に関する意見交換を一定程度行うことができた。また、翌年度に入手するつもりであった文献を前倒して購入し、可能な限り、その資料の検討と分析を翌年度に先んじて行うことによって、研究計画全体の進捗状況に支障をきたさないように、研究を臨機応変に進めた。これにより、当初の研究計画における研究の順序とは異なることにはなったが、本研究計画の全体としての進捗状況については、おおむね順調に進展しているといえる。 2020年度においては、具体的には、ゲルマン法・ローマ法の継受・自然法について分析を終えている。中世はゲルマン法の特徴がよく表れている時代であり、当時の法制度はローマ法とは異なる内容を有していた。その後、ローマ法が継受され、ゲルマン法との融合がなされる。これは、いわゆるusus modernus pandectarum(パンデクテンの現代的慣用)につながっていく。そして、自然法論に基づく法典編纂期へと推移していくのである。 これらの研究成果をふまえた上で、2021年度においては、ドイツの現行法であるBGB(ドイツ民法典)の分析をまず行い、その後、日本における物権債権峻別論の検討を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度においては、物権債権峻別論に関するドイツ法の分析を終えた上で、日本法に関する分析を進めていく。しかし、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響は続くと思われる。このため、ドイツへの研究出張が可能となるかどうかはいぜんとして不透明である。2021年度が本研究の最終年度にあたるところ、2021年度中にドイツに赴くことができない場合には、本研究に必要不可欠な、ドイツにおいてのみ入手可能な文献を手に入れられないことになってしまうため、研究期間の延長を申請せざるをえなくなるかもしれない。 2021年度の中心的な研究課題である、BGB(ドイツ民法典)に関する分析についてここで付言しておく。BGBの成立にあたっては、歴史法学派によるローマ法の新たな解釈が大きな影響を与えたことは、広く知られている。所有権の概念が明確に定義され、物権と債権の区別が重視されたことに、その特徴がある。BGBにおける所有権は、物を包括的に支配する絶対権そのものである。このことは、制限物権の種類を限定することにも親和的である。 物権法部分草案は、物権法定主義に基づきつつ、制限物権の種類を増やさないことに主眼がおかれながら策定された。この方向性は、物権と債権を異なる分野として位置づけ、とくに物権を独立した権利として把握することとも平仄が合う。 BGBも、物権法部分草案と同じく、物権と債権を峻別しており、物権法定主義を採用しつつ、物権の種類を制限した。制限物権は、物権債権峻別論を批判的に検討するにあたって、格好の素材である。なぜなら、所有権とは異なり、いわば不完全な物権であるため、物権が備えているとされる性質の一部が欠けており、それだけ債権の性質に近づくことがあるからである。
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Causes of Carryover |
2020年度は、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を強く受けた。このため、当初の計画において予定されていたドイツへの研究出張をまったく行うことができなかった。また、国内の研究出張も見合わせることとした。このため、旅費を一切使用することができなかった。しかしながら、2021年度に購入する予定であった文献を2020年度に前倒しをして入手することとし、これに関する物品費を使用することができた。もっとも、それでもなお、旅費を使用できなかった分が多くを占めたため、結果として未使用分が多く残った。 2021年度においては、新型コロナウイルスにともなう社会状況が改善されれば、ドイツに研究出張に赴き、ドイツの研究者にインタヴューを行ったり、ドイツでのみ入手可能な文献を手に入れたりする予定である。このために、2020年度の未使用分と2021年度分の助成金を合わせて使用する所存である。 しかしながら、新型コロナウイルスの影響が2021年度いっぱいも続くようであれば、ドイツへの研究出張は不可能となる。その場合には、大変残念ではあるが、研究期間の延長を申請することも視野に入れなければならなくなるであろう。
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Research Products
(1 results)