2022 Fiscal Year Research-status Report
物権債権峻別論に関する批判的考察-歴史的経緯・現行法上の意義・解釈論と立法論-
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19K01379
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大場 浩之 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10386534)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 物権債権峻別論 / 不動産公示制度 / 物権変動 / ドイツ法 / 仮登記 / ius ad rem / 物権法定主義 / 制限物権 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度においては、ドイツ法上の制限物権について、おもに物権法定主義の観点から分析を行った。具体的な分析結果は以下のとおりである。 まず、ドイツ法は、BGB(ドイツ民法典)の成立により、物権債権峻別論を採用することを明確に標榜した。典型的な物権として、絶対性を有する所有権を物権法体系の中心にすえた上で、所有権以外の物権を制限物権として配置し、かつ、物権の種類を制限した。 物権法定主義に基づいて、BGBに定められている制限物権は、下記の通りである。すなわち、役権としてまとめられる地役権・制限的人役権・用益権、そして、先買権、物的負担、さらには、担保権としてまとめられる抵当権・土地債務・定期土地債務である。これらのうち用益権以外は、いずれも土地のみを目的物とする。そして、動産を目的物とすることのできる制限物権は、用益権と質権のみである。質権は、土地を対象とすることはできない。 これら制限物権にくわえて、特別法に定められている地上権と、物権とは明確に位置づけられてはいないけれどもBGBに規定されている期待権・処分制限とを、物権に類似した権利として、分析の対象とした。とりわけ、BGBにも特別法にも物権として定められていないにもかかわらず、解釈論あるいは実務において絶対性が認められている諸権利は、物権債権峻別論との緊張関係を生み出す契機となる 。 物権債権峻別論を徹底しようとするBGBの立法当初の態度と比較して、実際には今日、BGBにおいてもさまざまな物権類似の権利が散見される。しかも、それら諸権利は解釈論上も絶対性を有する権利として認められている。このため、ドイツ現行法においてはたして物権債権峻別論が徹底されていると評価することができるのか、疑問が残る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度も新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受けたため、ドイツに赴いて資料収集をしたり現地の研究者に対面でインタビューをすることはできなかった。このため、本研究はやや遅れており、研究期間の延長を再度申請した。現在の進捗状況は以下のとおりである。 まず、物権概念の独立性の観点から物権債権峻別論を検討するという目的にてらして、ローマ法をみてみると、所有権概念がかなりのレベルで明確に理解されていたことがわかる。さらに、所有権の移転方法についても、traditio(引渡し)を中心とした理論構成を通じて、売買契約と所有権移転との異同が意識されるとともに、実務慣行との関連性も重視しつつ、柔軟な理解がなされていたのである。 そして、ゲルマン法における物権概念を理解するためには、Gewere(ゲヴェーレ)の分析が不可欠である。Gewereは、物権そのものであり、かつ、物権の公示でもあった。その内容は、現代における所有権と同視することができる場合もあれば、制限物権にすぎない場合もあった。つまり、Gewereは、場面に応じて多義的な概念であった。 その後、ローマ法が継受されたことにより、物権債権峻別論の基礎がさらに固められ、物権法定主義の内容がさらに深められた。この点において、ローマ法の継受によってもたらされた法制史上の意義は大きい。 さらに、ゲルマン法がローマ法の継受によって一定の修正を施され、その際に重要な役割をはたしたのが、自然法であった。自然法における体系的思考と公示の重要性は、物権と債権の概念にも影響を与えた。というのは、権利概念の体系的整理がなされるにあたって、公示することのできる権利すべてに絶対性を有する道が開かれるからである。すなわち、物権か債権かといったかたちにとらわれることなく、公示することが可能かどうかが決定的な基準となった 。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、本研究の最終年度となる。幸にして新型コロナウイルス(COVID-19)の影響もだいぶなくなってきたため、今年度中にドイツに赴き、資料収集と現地研究者へのインタビューを行うことができる運びとなった。その上で、具体的には、本研究の総仕上げとして、以下の観点に基づいて分析を行う予定である。 まず、物権の典型例である所有権は、物権の性質とされる直接性・絶対性・排他性を有するとされるが、あらゆる所有権にこれらがすべて認められるわけではない。物権債権峻別論におけるその判断基準は、はたして明確であろうか。物権と債権を分ける判断基準を批判的に分析する作業が不可欠である。 たとえば、物権であるにもかかわらず相対性しかもたない権利として、対抗力を有しない物権がある。具体例として、登記を備えていない不動産所有権や、引渡しを受けていない動産所有権をあげることができる。また、絶対性を有する債権として、ius ad remをあげることができる。すなわち、仮登記された請求権、債権者代位権・債権者取消権が行使されたケース、対抗要件を備えた賃借権、および、第三者による債権侵害のケースである。 これらそれぞれのケースにおいて、物権と債権の区別は明確な基準に基づいて判断されているのだろうか。あるいは、物権であるにもかかわらずその性質を制限し、債権であるにもかかわらずその効果を拡張する際の、それぞれの判断基準はなにか。はたして、そこに統一的基準を析出することはできるのだろうか。 物権は直接性をもち、債権は間接性しか有しない、ということは明らかであるけれども、物権であるからといって排他性や絶対性を有するとは限らないし、債権であるからといって排他性や絶対性を有しないとは限らない。つまり、物権と債権を区別することのできる基準は、物権が対物権であること、債権が対人権であること、のみなのではないか。
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Causes of Carryover |
2022年度も新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を残念ながら受けてしまったので、当初計画していたドイツへの出張を行うことができなかった。このため、日本にとどまったまま、できる限り文献の収集にあたり、かつ、オンラインでドイツ人研究者にヒアリングを行うこととした。したがって、海外出張旅費として使用する予定であった分が残ることとなった。 2023年度は、本研究の最終年度となる。新型コロナウイルス(COVID-19)の影響もだいぶなくなり、渡航制限や入国制限が大幅に緩和されたため、今年度はドイツに赴き、現地でしか入手不可能な資料を収集することができる。また、現地の研究者に対面でじっくりインタビューを行うことができる運びとなった。 このため、2023年度においては、2022年度までに残った分を使用して、おもにドイツへの海外出張旅費として使用する予定である。また、本研究の成果を書物にまとめて出版しようと考えている。
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Research Products
(4 results)