2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K01380
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
本間 靖規 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50133690)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 既判力 / 客観的範囲 / 主観的範囲 / 当事者概念 / 承継人概念 / 手続保障 / 比較法 / 沿革研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度に目指していた、本テーマに関する基礎的研究のうち、比較法部分、すなわちドイツ民事訴訟法の一部である判例研究の一端を論文にして公表した(「近時の判例に見るドイツ既判力論の一断面」三木浩一他編『民事手続法の発展』919-936頁(成文堂、2020年3月)。これにより既判力の客観的範囲に関するドイツと日本の議論の相違と近接の状況を明らかにすることができた。すなわち登記請求における背後物権(主として所有権)の存否に既判力が生じるかの問題について、日本の学説の一部にこれを肯定する見解が存在するが、判例をはじめ多くの学説はこれを否定する見解を採ってきた。ところがドイツにおいては、むしろこれを肯定する見解が多数説を占めており、判例も肯定説、否定説に分かれていた。そのような状況の中で、ドイツ最高裁(BGH第5民事部)は、2018年2月9日の判決において否定説に立つことを宣明した。その学説への影響は非常に大きなものと思われる。そこで示されたBGHの見解は、日本の判例、通説の立場と同様のものであり、今後の学説の議論によっては、これが多数説をなす可能性がある。そのような意味で、ドイツの今後の議論から目を離せない状況になっていることを明らかにしたことが、上記論文の意義である。 この判例に関する学説の反応を確かめるべく、3月にドイツ・ハイデルベルク大学及びライプツィヒ大学においてインタビュー調査を予定していたが、コロナウイルスの影響により断念せざるを得ず、2020年度の課題として残っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年に2月と3月に予定していた中国上海・華東政法大学における研究報告と調査ならびにドイツ・ハイデルベルク大学及びライプツィヒ大学における資料調査並びにインタビュー調査をコロナウイルスの影響で断念せざるを得ず、費用も大幅に不消化のまま残ってしまった。そのため本来のテーマである既判力の主観的範囲に関する資料収集が不十分なまま19年度の研究期間を終えることになったことは、まことに残念なことである。もっともデータベースを駆使して日本で手に入る文献については、引き続き研究を続けているが、新しい学説をフォローするための文献購入には、多少手間取っている。不消化に終わった19年度の補助金を使い、今後はまず文献収集に努め、20年度の後半のできる限り早い時期に、ヨーロッパの主として大陸法国における現地での調査や意見交換のためドイツほか、スイスやオーストリアに行き、19年度にできなかった研究の補充を行うことを考えている。幸い、ドイツ・ハイデルベルク大学、フライブルク大学、オーストリア・リンツ大学等において、これを可能にする調査受け入れ体制が保持されており、それらの大学の今後のコロナ関係の動静も見ながら、時期を見計っているところである。状況が調査を可能にし次第、比較法研究のため、ただちに現地調査を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように2019年度は、既判力の客観的範囲に関し、順調に論文を公表できたものの、コロナウイルスの影響でヨーロッパ調査が不可能になったため、その後のフォローができないままに終わってしまった。また予算も不消化のままになっている。そこで2020年度は、コロナウイルスの終息を待って、できるだけ早い時期に2019年度に行う予定であった調査の補完を行う。また多少不便を感じている資料(文献)の収集にも引き続き努める。そのうえで本来のテーマである既判力の主観的範囲の研究に入り込んで、基礎的研究のうち、比較法的研究を進めていきたい。この問題に関する日本の議論は、近時活発化しているが、口頭弁論終結後の承継人の範囲を狭く解する方向をたどっているように思われ、他国とは異なった議論になっていて大変興味深いところである。また民法の改正により保証人の抗弁規定が新設されたが、その訴訟法的意味も探求に値する。このあたりの日本の議論を携えて、比較法研究のため現地に赴くことは非常に意味のあることと考える。調査に当たっては、ドイツ・ハイデルベルク大学及びフライブルク大学、ルクセンブルク・マックスプランク・ヨーロッパ民事訴訟法研究所がこれに応じることを快諾してくれている。また調査の範囲をオーストリア・リンツ大学、スイス(大学・研究所は未定)に広げるほか、中国、韓国などにおいても研究成果を報告する傍ら、彼の地での議論の状況などを調べる予定である。
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Causes of Carryover |
2020年2月に予定していた中国上海・華東政法大学における研究成果報告、同年3月に予定していたドイツ・ハイデルベルク大学及びライプツィヒ大学における資料調査並びにインタビュー調査がコロナウイルスの影響により中止となり、その分、科研費がぎりぎりのところで不消化に終わったため、次年度使用額が生じた。
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