2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K01388
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石綿 はる美 東北大学, 法学研究科, 准教授 (10547821)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 民事法 / 民法 / 性別 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、「性別」を巡る個別の問題点の研究を、親による子の奪い合い、配偶者の居住権保護、親子関係の成立という3つの論点から行った。前二者は法律の規定上は性別の区別がないものであるが、運用上は性別による差異があるもの、後者は性別による区別が存在するものである。 具体的には、親による子の奪い合いについては、刑事法学者との共同研究を通じて、子の奪い合いの民事法上の解決方法としてどのようなものがあるのか、子の養育者の決定の際にどのような要素が考慮されるのか、その際に親の性別が考慮されるのかなどの点について検討を行った。この点については、刑法学会のワークショップで口頭発表を行うとともに、東北ローレビューにも公表した。 配偶者の居住権については、一般的には、女性の生存配偶者の保護が問題とされていることを踏まえ、2019年の相続法改正で新設された配偶者居住権の研究を通じて、被相続人の死後、配偶者の居住権の保護をどのように行うことができるのか、具体的にどのような状況において、配偶者居住権が有用であるかという点について検討を行った。この点については、中日民商法研究会(国際学会)で口頭発表を行うとともに、雑誌及び書籍に論稿を掲載した。 親子関係の成立については、生物学的な特質ゆえに、法律上、母子関係の成立と父子関係の成立の方法は異なるものとされている。2019年度は特に父子関係の成立のための制度である嫡出推定制度について検討を行った。父子関係の成立について、血縁がどの程度重視されるべきであるのかという視点からの検討行い、生物学上の父でない場合にも法律上の父子関係が成立するのか、それはどのような場合かという点などについての検討を行った。この点については、雑誌に論稿を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、「性別」を巡る個別の問題点の研究を、親による子の奪い合い、配偶者の居住権保護、親子関係の成立という3つの論点から行った。前二者は法律の規定上は性別の区別がないものであるが、運用上は性別による差異があるもの、後者は性別による区別が存在するものである。 これらの研究は、「性別」を巡る個別の問題点を検討するものである。前二者は、法制度における性別の機能について検討するものであり、後者は性別の法律上の機能について検討をするものであり、「性別」について包括的な検討、「性別」の法的意義の再定義を目的とする本研究との関係では、重要な意義を持つものである。また、研究計画策定時と異なり、いずれの論点も法改正等によりその重要性に注目が集まっているところであり、研究計画には入っていなかったが研究を行うこととした。 他方で、2019年度は、上記の点の研究を中心に行ったことから、当初の研究計画で予定されていた、「性別」そのものが問題になる点についての研究については、フランスの破毀院判決の検討や日本法の研究を行ったが、公表まで至らなかった。 したがって、当初の研究計画の通りには必ずしも遂行できていないが、法改正の状況を踏まえて新たな論点についての研究を行っていることから、おおむね順調に進んでいると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、2019年度の研究の積み残しである、「性別」自体を巡る近時の問題についての検討を行う。具体的には、インターセックスの者が、公的文書における「男性」という記載を「中性」に変更を求めた事案であるフランスの破毀院2017年5月4日判決及び同判決を巡る議論の検討を行う。また、日本法において性別がどのように扱われてきたのかという点について、性同一性障害者の性別変更の問題・近時の最高裁判例の検討を行う。 また、「性別」の二分と表裏一体の問題であると考えられる婚姻問題についても検討を行う。2020年度は特に、婚姻の効果として意味を持つと考えられる母子関係・父子関係という親子関係の成立について、2019年度に引き続き検討をする。これらの研究を通じて、「性別」というのは親子関係の成立のために不可欠なものか、「性別」概念を法律上残す必要があるのかという点についての研究を進めていくこととする。
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Causes of Carryover |
当初予定していた外国出張を行わなかったことにより、残高が生じた。2020年度も外国出張の実現は難しいかもしれないが、文献調査等により研究を遂行する予定である。
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