2020 Fiscal Year Research-status Report
環境の法的保護における合意的手法の活用-フランス環境法の「契約化」
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19K01389
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
小野寺 倫子 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (10601320)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 環境保護 / 契約 / 民事法 / フランス法 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の環境法制は、行政機関による規制と監視、違反に対する制裁を中心とし、環境保護における民事法の役割は、おもに公害被害者の救済のような場面に限定されている。しかしながら、現代社会においては、環境保護における市民の積極的なかかわりの重要性が高まってきている。そのためには、市民による環境の法的保護への参加の仕組みを構築することが重要であるが、その場合の手段として市民社会のルールである民事法を活用することが考えられる。 この問題について、本研究が検討の対象とするフランス法では、1990年代後半ころから契約という市民の自発的な意思に基づく合意を基礎とする環境保護法制の構築の必要性が認識され、研究が重ねられてきた。その研究成果の一つが、2016年に立法化された環境従物債務制度である。これは、土地の所有者が公的セクターや環境保護団体との契約によって土地上に環境保護のための義務を設定するというものである。土地などの不動産は、重要な環境媒体であるが、私的所有権の対象でもあり、従来の環境規制を中心とする環境法政においては、しばしば「環境規制」対「所有権行使の自由」という対立構造としてとらえられてきた。これに対して、フランスの新しい環境従物債務制度では、環境媒体としての不動産所有者の、自らの所有物上で継続的に環境保全を行いたいという意思決定を契約によってアシストする仕組みが作られている。 環境従物債務制度は、要役地を必要としない土地上の負担であり、民法の伝統的な地役権制度とは異なる。また、ある時点における土地所有者と第三者との契約によって、当該土地の承継人にも対抗できる土地上の負担を発生させる点でも従来の物権と債権との関係に変容を迫るものである。2020年度の研究では、この点について、フランスでの立法過程における議論にさかのぼって分析を行った。。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度後半からの世界的な感染症の流行について、2019年度末の時点では、遠からず状況が改善し、比較法研究を実施する環境も元の状態に回復するとの楽観的な予測を立てていた。しかし、その後2020年度においても国内及び研究対象国であるフランス双方において感染収束しなかった。そのため、2020年度を通して、フランス及び日本国内での調査や資料収集、国際シンポジュウム等への参加などの研究活動は行えない状況が継続している。 2020年度においては、このような状況を踏まえて文献の分析を手法として研究を進めることとした。しかしながら、研究の対象国であるフランスでの感染症流行状況が特に深刻であったことの影響もあってか、特にフランスからの資料入手については、図書の取り寄せに時間がかかったり、検討を予定して手配していた文献の公刊の遅延したり中止されたりするなどの支障が生じた。そのため、文献資料の分析による研究の遂行にも、一定程度の制約を受けざるを得なかった(フランス及びそれ以外の欧米諸国について外国研究を行う他の研究者に状況を照会したところ、国によって程度に多少の違いはあっても、外国からの文献の収集にはいずれも一定の制約が生じているとこのことであった)。 文献資料の入手については、徐々に状況が回復してきているものの、2020年度内においては、以上のような感染症流行による研究環境の変化の影響を完全には払拭できず、計画策定時の予定より研究の進捗にやや遅れが生じたものである。
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Strategy for Future Research Activity |
目下研究環境にも大きな影響を及ぼしている感染症の流行については、ワクチン接種などの対策が進められているところではあるが、現時点で今後の状況を見通すことは難しく、2021年度内に研究対象国であるフランスに渡航してインタビューや文献収集等の調査などを実施できる可能性は高くない。もっとも、国内及びフランスからの文献の取り寄せについては、徐々に状況が改善の兆しもみられる。このような状況にかんがみ、2021年度においても、すでに収集済みの文献資料及び日本国内で入手可能な資料を用いた文献の分析と検討を中心に研究を進めるものとする。 他方において、近年の日本国内での研究状況を見ると、要役地を必要としない点で従来の地役権とは異なる土地上の負担、いわゆる人益権について、民法の一般的な問題として、理論的関心が高まっている。フランスの環境従物債務制度は、環境問題という特定の領域に限定されるものではあるが、この問題についてフランス法の立法と研究の現在地点を示すものであるといえ、研究を推進することには、環境保全の分野にとどまらない理論的意義があると考えられる。 現在の日仏のこのような研究の状況にかんがみ、今年度の研究においては、研究対象を広く環境と契約に関するフランス法の状況の研究一般に広げるのではなく、すでに一定程度以上の文献資料を収集できている環境従物債務制度を中心として、日本での人益権に関する諸研究との応接を試みるなど、より基礎理論的な観点に重点を置いて研究を進めるものとする。 なお、今年度は、研究機関の最終年度に当たるため、研究成果のまとめと公表に向けた作業も行っていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、感染症の流行拡大により、旅費の支出がなかったことである。次年度において図書の購入や図書館相互利用による文献取り寄せの費用として使用することを計画している。
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