2019 Fiscal Year Research-status Report
保証契約における錯誤の判断枠組みの類型化―フランス法からの示唆
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19K01390
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小林 和子 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 准教授 (90508384)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 保証契約 / 錯誤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、最新のフランスにおける議論を参考にしながら、いかなる場合に錯誤に関する従来の判例理論に依拠しながら錯誤無効の主張の可否が判断されるのか、いかなる場合に保証取引の構造の特殊性を考慮しながら錯誤無効の主張の可否が判断されるのかについて考察することにある。 本年度は、本研究の基礎となる最近のフランス法における議論の調査を行った。第一に、保証取引は、主債務契約・保証契約・保証委託契約から構成される取引である。すなわち、複数の契約から構成される取引である。そこで、複数の契約から構成される取引に関する最近のフランス法の状況について、調査を行った。フランス債務法改正オルドナンス(2016年2月10日のオルドナンス)による民法典改正までの流れ、民法典改正の内容(民法典1186条2項、同条3項、1189条1項)、民法典改正後の重要な判決、改正の内容に対する学説などについて調査を行った。 第二に、本研究の関心は、保証取引に関する問題の中でも、保証契約における錯誤(詐欺による錯誤も含む)の場面にある。そこで、錯誤に関する最近のフランス法の状況について、調査を行った。すなわち、フランス民法典改正前の状況(旧民法典1110条)、民法典改正の内容(民法典1132条から民法典1136条まで、1139条)、改正に対する学説などについて調査を行った。 第三に、本研究の関心は、保証契約における錯誤であるが、従来、フランスでは、保証契約における錯誤の判断枠組みの問題は「コーズ」(原因)の議論の中で論じられることが多かった。しかし、フランス債務法改正オルドナンスにより、新しいフランス民法典では「コーズ」(原因)に関する規定は削除された(民法典1128条)。このことは、保証契約における錯誤の判断枠組みの問題にどのような影響を及ぼすのかについて、学説でどのように議論されているかについて、調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究以外・予定外の仕事が本年度はそれほど多くはなかったため、本研究に予定通りの時間を使うことができたため
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Strategy for Future Research Activity |
本研究に関連する日本の裁判例と学説についての検討を行う。日本では、保証契約の錯誤無効の可否が問題となった裁判例には数多くのものがある。例えば、(1)契約締結意思の欠陥があった場合(他人に印鑑を預けたところ保証契約を締結されてしまった場合、他の書類に紛れて保証契約書に署名・押印させられた場合など)、(2)主債務者についての錯誤(主債務者が信用不安の状態にあることを知らなかった場合、ある者が主債務者であると思っていたが他の者が主債務者であった場合、ある者が主債務者になると思っていたがこの者は主債務者とならなかった場合、主債務者は実体のない会社であった場合、主債務者の職業を誤信していたあるいは反社会的勢力でないと誤信していた場合など)、(3)主債務についての錯誤(空売買・空リースと知らずに立替払債務・リース料債務などを保証した場合、金額を誤解した場合、追加融資がなされると誤信した場合など)、(4)他の担保についての錯誤(他に抵当権などが設定されていると誤信した場合、物的担保の評価を誤った場合、他に連帯保証人あるいは物上保証人がいると誤信した場合など)、などがある。これらの裁判例について、どのような判断枠組みで錯誤無効の可否が判断されているかの検討を行う。 また、保証契約の錯誤無効の可否の判断枠組みに関する日本の学説について、検討を行う。学説では、例えば、錯誤の問題であるとし、錯誤に関する従来の判例理論に依拠しながら錯誤無効の主張の可否について議論を行う見解、保証取引の構造の特殊性を考慮しながら、錯誤無効の主張の可否を検討すべきとする見解がある。後者には、債権者と主債務者間の事情(主債務契約)の影響を考慮すべきとの見解、保証人と主債務者間の事情(保証委託契約)の影響を考慮すべきとの見解などがある。いかなる場合にそれぞれの学説が妥当するかの検討を行う。
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Causes of Carryover |
本研究に必要な文献の購入に使用したが、割引価格での購入ができたなど、購入価格を抑えることができたため。本年度中には購入できなかった文献の購入に使用したい。
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