2020 Fiscal Year Research-status Report
保証契約における錯誤の判断枠組みの類型化―フランス法からの示唆
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19K01390
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小林 和子 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 准教授 (90508384)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 保証 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、保証契約における錯誤の判断枠組みの問題は、フランス法では、「債務のコーズ」の議論の中で論じられることが多かった。すなわち、フランス法では、保証によって利益を得るわけでもない保証人はなぜ保証債務を負うのか、という議論の中で論じられることが多かった。この問題について、フランス法は、債務のコーズは保証契約の外部にある、とする。保証契約の外部にあるとは、具体的にどのようなことを意味するのか、最近のフランスの学説や判例を調査した。 まず、保証契約における「債務のコーズ」を、主債務者と保証人の関係とする見解があった。この見解に対して、主債務者と保証人の関係は、債権者とは関係のない問題である、との批判があった。次に、債権者と主債務者の関係とする見解があった。この見解に対して、付従性の原則との関係が問題となる、との見解があった。最近の破毀院判決(破毀院商事部2017年5月17日判決(D.2017.p.1694,note D.mazeaud))は、債権者と主債務者の関係に債務のコーズがあると判断した。 第二に、日本法において、保証契約の錯誤無効の可否が争われた判決について、その判断枠組みの整理を行った。保証契約の錯誤無効の可否において中心的な論点は、「動機の錯誤」の処理である。保証契約の錯誤に関する大審院判決では、一定の事項を、一定の要件(例えば、積極的に、契約の要件・条件とするなど)とする限り、要素の錯誤となる、と判断した判決があった。最近の具体例でも、様々な判断枠組みがある。例えば、①動機の表示、法律行為の内容化、要素の錯誤該当性を判断する判決、②動機の表示、要素の錯誤該当性を判断する判決、③動機の錯誤について、要素の錯誤該当性を直接に判断する判決、などがあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は、フランスで、資料収集やフランス人の研究者や実務家に直接インタビューを行う予定であった。新型コロナウィルスの影響により、フランスに行くことができず、現地での資料収集や直接のインタビューができなかった。 2020年度は、フランス法や日本法について、筑波大学以外の大学の図書館で資料収集を行う予定であった。しかし、新型コロナウィルスの影響により、多くの大学が、開館時間を制限したり、利用可能者を制限したため、計画通りに様々な大学で資料収集を行うことができなかった。 新型コロナウィルスに対応するための仕事が増加したため、予定よりも本研究に時間を使うことが難しかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、フランス法において、保証契約の錯誤無効の可否が争われた判例・関連する学説について、特にその判断枠組みに着目をし、整理・検討を行う。フランス法では、債務者の返済能力に関する錯誤、他の担保の存在の有無に関する錯誤などがある。フランスの裁判所は、保証人による錯誤の主張を原則として認めない。 2021年度は、フランスで、資料収集を行うことや、実務家や研究者に直接インタビューを行うことを予定している。新型コロナウィルスの影響により、フランスに行くことが難しい場合には、フランス法のデータベース等を積極的に使用すること、オンラインによるインタビューを行うこと、を考えている。 2020年度中に検討を行った問題について、筑波大学の紀要で公表を行う予定である。また、2021年5月には、筑波大学における民事法研究会において、本研究の一部に関する報告を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度には、フランスで、資料収集を行うこと、研究者や実務家に直接インタビューを行うこと、を計画していた。しかし、新型コロナウィルスの影響により、海外で調査・インタビューを行うことを断念せざるをえなかった。 2021年度も、新型コロナウィルスの状況次第では、海外での調査・インタビューを断念する必要がある。その場合には、積極的に、フランスのデータベースを活用し資料収集を行うこと、フランス人研究者や実務家へオンラインでインタビューを行うこと、をする。
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